研究課題/領域番号 |
21K02158
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
黒石 いずみ 青山学院大学, 総合文化政策学部, 客員教授 (70341881)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 冷戦期文化政策 / 住宅問題 / 戦後デザイン史 / ロックフェラー / 住宅福祉 / 文化的独自性 / 生活価値 / 国際的建築デザイン交流 |
研究実績の概要 |
コロナ禍の影響で、米国での調査を行う機会は一度得られただけだった。自分自身も罹患して体力的に困難な時期があり、研究にも影響が生じたことは残念だった。 しかしロックフェラー研究所とプランゲコレクションの調査を行うことができ、後者の日本国内で取得保存されている国会図書館の憲政資料館の調査も部分的ではあるが行うことができた。全く新しい知見が得られたというよりも、当時の言説の環境を実感できたこと、戦後資料の多様な広がりを知ることができたことは大きい。また機会をとらえて再訪し、その意味を十分理解できるようにしたい。 また、海外の関連する国際学会に参加して、パネルの議論を通して多様な領域の研究者と交流し、自分の問題意識の妥当性と限界、領域ごとに異なった問題意識と同時に重なり合うものを見つけることができた。 特に、ハウジング(住宅問題)研究の蓄積を、建築計画や理論とは異なる福祉学や都市研究、社会学や経済学の方面での蓄積と対照して理解することができたのは、自分の問題意識を明確にする上で大きな収穫だった。感染症や災害による住環境の変化や価値観の変化なども研究の対象として明確化して扱う事に気づき、論考などを行うことができたのは有意義だった。 また、日本のデザイン運動の詳細とデザイン史分野からの問題意識を戦後の建築デザインの展開と関連付けて読み解く作業を始めることができた。その資料や研究の蓄積は膨大でかなりの時間が必要だと思われる。一方で、多くの関係する方々がまだご存命なこと、その領域での戦後デザイン史研究がまだ十分進んでいないことを知ったので、自分なりの視点と方法で慎重に開拓し、本研究の多面性を強化できるように努力していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍の影響で年度前半はアメリカ、ヨーロッパ共に調査訪問が困難だった。特に研究者自身が罹患したために体力的に問題が発生した。後半には、関連する国際学会をきっかけにして二度調査と研究者との交流を行うことができた。またアメリカの調査対象地であったロックフェラー研究所などを短期で訪問できた。しかしながら、調査に十分な時間が取れなかったので、予定通りの資料を得ることができていない。これらの資料の整理作業、論文化するための分析考察はコロナ禍の状況も改善したので、来年度に急速に進めていきたいと思う。 資料の取得においては上記のように遅れているが、問題意識の鮮明化、理論的な背景を他分野にもわたって集め、日本の歴史的住宅問題資料を集めて照らし合わせる作業は行うことができた。本研究の独自性や位置付けも明確化できたので、じっくりと資料基盤を整えること、理論的な構造を作る作業を進めていくつもりである。 また幸いなことに、本研究と間接的・直接的に関連するデザイン史研究分野の研究者、資料や対象と関係を持つことができたので、その知見も丁寧に習得し、来年度は積極的に本研究に活かして資料収集や論考を進めていくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
研究の計画の中で海外の資料収集が最も遅れており、米国の国立公文書館やブランゲコレクション、住宅局の資料室、フーバー研究所、メリーランド大学図書館、コロンビア大学図書館、MOMAなどは、冷戦期の占領地政策や米国国内の住宅対策に関する資料、戦時期から戦後にかけてのデザイン戦略に焦点を当てて調査を行う。これまでの調査資料と合わせて、必要な資料と問題点の整理を行う。 またドイツの住宅政策については既往研究から主とした知見は得ているが、戦時中から戦後にかけての公共住宅の制度の多角化、民間団体の積極的な関与についての基礎的な知識を得ておきたいと思っている。また米国とドイツと日本の建築政策や計画理論、デザイン思想の交流と独自性については、既往研究の範囲では理解しているが、戦争をきっかけにした転換の背景とプロセス、その具体的な表れについてより明確に理解できるよう、社会学やデザイン史、福祉政策史の知見も得て整理したい。 日本の都市や建築デザイン、計画の領域と深く関連した戦後デザイン運動の歴史を、既往研究の理解を進めるだけでなく、より具体的に本研究の目的に沿うような問題意識を形成するために、インタビューや、新聞などのオリジナルの資料の調査を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で海外での研究調査がほとんどできなかったために出張費が支出できなかった。国際学会やアメリカ調査の経費は他の助成金を使用したために使用する必要がなく、書籍の購入のみに使用した。 次年度は、本年度に不可能であった調査対象地への訪問を実行する予定である。 また研究者がコロナに罹患してデータの整理も十分にできなかったが、次年度は、外部の機関に発注したりしてデータの体系的整理と分析を行う予定である。
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