研究課題/領域番号 |
21K02158
|
研究機関 | 福島学院大学 |
研究代表者 |
黒石 いずみ 福島学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70341881)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ブランゲ文庫 / ロックフェラー資料 / 戦後占領政策の国際比較 / 公共住宅の現状 / 地域社会との関係 / ドイツ戦後住宅政策 / 都市計画的視点 / 戦後経済史研究 |
研究実績の概要 |
メリーランド大学のブランゲ文庫に所蔵された戦後直後の占領期における住宅政策関係の雑誌、行政文書、専門書籍、パンフレットなどの資料を収集し、その解読を行なった。またロックフェラーセンターの所蔵する占領期におけるジョン・ロックフェラー3世の資料を閲覧し、ロックフェラー家全体のフィランソロピー活動における日本での彼の活動の位置付け、彼の占領国の復興に対する考え方などを理解した。また、既往研究で海外の研究者による日本の住宅政策や住宅史の研究、国内の学会を中心に継続的に投稿されている住宅問題関係の研究、特に海外の建築思想と日本のそれとの関係や波及効果についての論考を、建築学会に限らず、社会学や歴史学の領域にまで広げて学んでいる。しかしコロナの影響などもあり、米国公文書館資料とメリーランドの他の資料の検証作業を初年度に全く行うことができず、上記の新たに加えた資料やそこから得た知見をうまく全体的に統合する作業が不足している。 海外の学会にも研究の切り口となる理念についての議論の展開を図るため積極的に参加し、都市計画学的な視点や社会学的視点、カルチャラルスタディーの視点と理論を確認している。カナダ、イギリス、ドイツ、アメリカ、スペインの研究者と比較論的議論を行い、問題の相対化に努めている。特にドイツの戦前から戦後にかけての経済史学の領域から、戦後の住宅復興に関する有意義な知見をうることができたのは、日本における占領軍の視点と住宅政策の論理の関係を相対化する上で重要なポイントだった。 上記の文献研究のほかに、日本の戦後公共住宅・公営住宅の現在も残る事例や、占領軍住宅が建設された地域の現状、それらが現在の都市景観に影響を与えている事例について、各地を実際に訪問し見学を続けている。そして地域史の視点からも、占領軍によりもたらされた生活文化や住宅形式がどのような意味を持つのかも合わせて考察している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度に続き、2023年度も自身がコロナに罹患し、発熱や喘息で体調が悪い日が続いた。また家族が相次いで高齢の為などで亡くなる一方で、2023年度から新しい職場に移り、生活環境が大きく変化したために十分落ち着いて研究する時間が取れなかったことが一つの原因だと思う。 もう一つは、様々な機会を作りアメリカやヨーロッパに調査に行き、学会で科研費に関連する研究発表を行なったり、海外での出版企画に寄稿したりする機会はあったが、これまで収集した資料とも関連づけて十分読み込み、独自な議論に反映させるにはまだ調査が不足している。ドイツの研究者との連携が始まったが、議論がまだまだ十分ではない。特に経済史や戦後政治の領域での議論には、国内事例、海外事例ともに基礎的な知識が不足しているので、都市建築の領域での戦後史研究で得られる即物的な情報を社会的文化的情報にうまく連結することができないジレンマがある。重要な具体的な事例を抽出し体系的に分析する明確な問題意識がさらに必要だと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本来であればすでに主たる調査を終えて、これまでの研究の蓄積を生かしつつ、その穴を埋めて、全体を体系化する作業を急ぐ必要があるが、まだまだそれぞれの調査が不十分で、国内にある資料だけでは不十分であることを感じている。早急に研究のポイントを絞り、資料の補足調査を行う予定である。 そのために、研究の主たる対象地アメリカやドイツ、50年代公共住宅の理論のメッカであるオーストリア、現代デザインと公共住宅計画の融合を実現したスェーデンには再度資料を求めにいく予定である。 またこのテーマに関連して幾つかの国際学会で発表してきた事柄をまとめると同時に、それに使用した資料の再検証を行なって、研究の方向性が正しいことを確認する必要がある。これまでのドイツ、イギリス、スペイン、アメリカの研究者との議論を具体的な成果としてまとめ、この研究に反映する必要もある。最終年度であるが、状況次第では延長することも考慮している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度、2023年度ともにコロナに罹患し、諸般の事情で研究時間が不足したこと、また他の研究費によって海外出張の経費がカバーされたことなどにより使用する金額が予定よりも少なかった。今年度は他の研究費が終了しており、科研費のみの予算で研究を行う。またコロナなどにより海外調査の不足が蓄積しているので、それを積極的に実施する。資料の整理に専門家を雇用することも検討しているのでその経費も必要になる。
|