研究課題/領域番号 |
21K02166
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
木村 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任教授 (60225050)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 教育制度の社会史 / 生活教育 / 教育科学 / ペダゴジー / 学校の境界線 / ケア |
研究実績の概要 |
1.日本の<学校から仕事への移行>の形成がなされた1930~50年代にかけての学校と社会に関する基本資料を、これまで収集した関連資料も含めて整理・検討し全体の中で位置づける作業を行った。 2.研究の枠組みについて、これまでの研究を踏まえながら課題論や方法論について検討を加えた(先行研究の一部を学会誌で書評した)。この研究のもととなっている教育制度の社会史研究のなかでも「学校の境界線論」について、歴史学、教育社会学、社会教育学の研究者のコメントを踏まえ検討した(<教育と社会>研究会)。さらに公教育の責任論について、現代の課題を検討し歴史的な視点から考察を加えた。その一部を日本教育学会の課題研究や雑誌『教職研修』(2021.12号/2022.1号)において発表した。 3.教えることの目的と関わりながら、何を教えるかという教育目標論の諸議論を整理した。教育による次世代形成という大人の責任論、教えることをめぐる歴史的な規定性、教育目標研究の課題に関わる論点に加え、教えることの境界線をめぐる葛藤と創造という点で学校の境界線の拡大と再定義の動向と教育目標の立脚点について考察した。 4.現代的な学校制度の課題に立脚するため、世界的に自明性を問われている学校の動勢の比較教育研究プロジェクトに参加、報告を行った(ジョイントセミナー「日欧における学校制度の可能性と限界を考える」(2021.7.31、大阪大学(「中等教育の生徒が早期離学・中退・進路変更する要因と対策に関する国際比較研究」(科研基盤(A)代表園山大祐))。欧州各国の状況を踏まえて、それぞれの学校(制度)の特徴や課題についての情報の共有や比較検討を行うことで、先進国において共通性のうえでの日本での固有の展開を捉える視座を得た。 5.1~4の作業をとおした研究の位置づけを明確にしながら、作業グループの組織化のあり方について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.関係資料の整理を拡大しての実施。社会史的基盤を押さえるための基本情報の整理は本研究の重要な柱である。資料の整理の作業の中で、本研究対象期の1930~50年代にかけてのみならず、日本の<学校から仕事への移行>の形成がなされた時期の学校と社会に関する基本資料の整理が必要と判断した。そのもとに、作業を拡大して、各時代の関係資料の整理も並行して行い、研究のフレームづくりのための情報の集積を進めてきた。 2.1.の研究の一端を資料集として公刊する準備。連携研究者である丸山剛史氏の助力をえて作業を進め、2022年度中の刊行の目処を立てた。3部構成で整理を予定。第1部では<学校から仕事への移行>の母体ともいえる日本の学校の制度的基盤や性格を押さえる基本資料を整理する。学校と社会との関係がどうあるか、<学校から仕事への移行>という課題がその中でどのように埋め込まれているかを確認するものである。第2部においては、<学校から仕事への移行>をどのように牽引しようとしたか。制度を支えた諸団体、具体的なモデルを提示した学校や実践の動向ならびに、社会の変動に対して独自に対応した学校の営みが分かる資料を選択の予定。第3部は、各期の学校から仕事に関する重要な諸雑誌を収録する。何を教えるかという意図を集約した教科書も含める予定。どのように意図が実現されたかについての情報を得るには、その実践を紹介した諸媒体である関連雑誌を探ることも重要で、合わせて幅広く関連雑誌の情報をリスト化も行う。 3.研究の基礎カテゴリーの検討。公教育、教育目標、ペダゴジー、ケア論など研究を進める上での基礎カテゴリーの検討を、歴史的文脈に注目して関連の研究と絡ませながら様々な機会を通じて行った。比較教育研究の研究者との交流を通して国際比較の視点も取り入れることが出来た。これらは実際の作業を進める上で重要な足場を作るものとして位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
1.資料の対象を広げながら、その一端を刊行することも含めて整理を継続することで、この研究を土台にしたさらなる総合的研究の土台作りも意識して取り組む。 2.同様に、公教育、教育目標、ペダゴジー、ケア論の基礎研究、国際比較の視点の導入は本研究において重要な意味をもったが、こうした2021年度の研究成果は中間段階でありさらなる検討を要し、継続して展開していく。 3.1,2の研究は本研究に深度を与えた。ただし、新たな課題もあきらかになった。すなわち、社会の課題との関係でそれぞれの意味と位置づけが変わり、それを捉えるべく、時期区分的な視点を意識的に導入し、研究を位置づける仮説的な見取り図をつくる必要が生まれたことである。その作業を2022年度の課題として新たに加えたい。具体的には、学校の世紀として1990年代までの1世紀を日本社会と学校との関係でとらえ、その中で30-50年代を位置づけたい。その際に、90年代以降に顕著になっている人類史的とも言える社会変動の教育への影響を30年代の社会と教育の課題との対比でおさえて、時代的状況を超えた日本の学校や教育の固有な特質ともいえるものを描き出すために仮説的な時期区分論を置きながら、本研究の検討に角度を与えたい。そのために公刊の可能性も含めて準備を進める。 4.こうした研究の推進方策は、コロナ禍の影響で各連携研究者による個別作業に関しての困難な状況を考慮したところにもよる。連絡を取りながら、それぞれの作業を位置づけていく所存である。なかでも影響を受けているのが教育運動家の戸塚廉の資料のリスト化という課題であるが、2022年度の状況をみて予定の修正が必要となる可能性がある。トータルな研究の進展を図るために修正も含めながらバランスを取って遂行したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由として、予定された調査、会議旅費がコロナ禍で支出できなかったことがあげられる。2022年度に関して、旅費に関してはコロナ状況に応じた柔軟な対応が出来る体制を取りたい。
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