研究課題/領域番号 |
21K02173
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松田 聡 岡山大学, 教育学域, 教授 (60806412)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 新学習指導要領 / 和歌の現代語訳 / 思考力の育成 / 万葉集 / 額田王 / 松尾芭蕉 / 古文教材 / 和歌・俳句の教材化 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、まず新しい教材の開発を目指して、万葉集巻七に採録される作者未詳の歌「我妹子が赤裳の裾のひづつらむ今日の小雨に我さへ濡れな」(7・1090「詠雨」)を取り上げ、研究発表を行った(「留守歌再考」美夫君志会5月例会/2023年5月14日、中京大学)。当該歌は教科書に採録されるものでもなく、また決して著名な作品でもないが、教材化しうる要素を多く内包している。まず「らむ」は古代の歌を考える上で重要な助動詞であるが、当該歌の場合、いわゆる〈留守歌〉のバリエーションと考えられることから、和歌史的側面から検討することが可能である。「赤裳」という表現も古代文化との関わりから考えることができる。一方、当該歌は注釈書によって大きく解釈が異なるため、諸説の比較という視点から教材化することによって、思考力の育成に資することができると考える。 いったいに、この「諸説の比較による思考力の育成」という視点は本研究の中核をなすものである。これは昨年度のシンポジウム(「和歌の『現代語訳』をめぐって」全国大学国語国文学会冬季大会)でも検討したものであるが、令和5年度後半では、このシンポジウムの報告に基づく論文を発表した(「和歌の『現代語訳』をめぐって―学校教育を視野に―」『文学・語学』第239号、2023年12月)。更に、その知見を活かして、より教材に沿った形の論文(「和歌・俳句を用いた思考力の育成―芭蕉の発句・額田王の歌を例として― 」『岡山大学国語研究』第38号、2024年3月)を発表した。特に後者の論文においては、教科書所載の韻文教材を中学国語から高校国語への橋渡しとして位置づけると共に、情報源を明示することによって、専門的知見を実践に応用できるように配慮した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では十分盛り込めていなかった「思考力の育成」という問題を、より具体的な側面から論じることができた。全国学会で1件の研究発表を行い、学術論文を2篇発表したが、これらの成果を通じて、古文教材における中学国語から高校国語への橋渡しという新しい観点を提示することもできた。以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、万葉集の歌を中心に新しい観点から教材化の試みを継続する。具体的には万葉集巻3に載録される山上憶良の「罷宴歌」を取り上げ、全国学会で研究発表を行う予定である。当該歌は教科書にも採られている著名な作品であるが、教材として考究すべき課題が少なくない。それらの課題を学術的観点から十分に検討し、いかにして教育に応用するかという問題について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で出張が全くできなかった年度の繰越金がまだ残っているために、見込みより多く次年度使用額が生じている。次年度はパソコン等の機器の更新や、研究図書等の購入、出張費用などに充当する予定である。
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