研究課題/領域番号 |
21K02184
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
土井 貴子 岡山理科大学, 教育学部, 准教授 (00413568)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 労働者教育協会 / 全英教師組合 / 成人教育 / イギリス |
研究実績の概要 |
本研究は,1903年にイギリスで設立された成人教育団体である労働者教育協会(Workers' Educational Association : 以下WEAと略記)に焦点を当て,WEAを学校教育改革の伸展の中に位置づけ,成人教育と学校教育の関係の一側面を実証的に明らかにしようとするものである。WEAは,広く労働者階級の教育状況の改善を目指しており,大学チュートリアル・クラスといった高等教育機会の提供だけでなく,学校教育に対する労働者階級の要求を表明していくこともその目的にしていた。 WEA中央当局には,1910年の時点で68の教員組合が加盟していた。なかでも,全英教師組合(National Union of Teachers:以下NUTと略記)は,WEA設立当初から加盟団体となっており,WEAを支援していた。NUTは,1870年に設立された基礎学校教師たちが加盟する教師組合である。NUTは,基礎学校教師の地位の向上だけでなく,学校教育制度についても意見を表明し、教育政策に影響を与えた。本研究では,WEAとNUTとの連携に焦点をあて,第一次大戦から戦間期にかけて両者がどのように学校教育改革に関与したのかを考察することとした。 具体的には,ウォリック大学現代資料館(Modern Records Centre)に所蔵されているNUTの史料を調査,収集した。NUTの年次報告書とexecutiveの議事録を分析しているところである。戦時下及び戦間期における教育費の削減をめぐる問題に連携して取り組んでいることが明らかになった。ただし,executiveの議事録は一部しか入手できておらず,継続して調査,収集する必要がある。その他にも,NUTの機関紙を調査している。そこでは,教育改革全般についてさまざまな議論が展開されており,こちらも継続して収集する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度からの遅れが影響をしている。本年度は,渡英して史料調査を実施できた。しかしながら,2回の渡英を計画段階では予定していたが,実際には年度末に1回しか実施できなかった。全英教師組合は本研究ではじめて分析対象としたため,基礎的な史料調査からはじめることとなった。ウォリック大学に残る全英教師組合の史料の全体像の把握と,最も優先度の高い史料を一部収集することができた。こうした状況のため,研究の進捗は当初の見込みよりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,WEAとNUTとが協力して展開した,戦時下並びに戦間期における教育費削減をめぐる議論と反対運動に焦点をあて,その取り組みを実証的に明らかにする。WEAは,NUTに先行して教育費削減に反対する動きをみせていた。その後,1916年にWEAはTUCと連携して会議を開催し,教育費削減運動を拡大させた。 まずはWEAでの教育費削減をめぐる議論と活動を検討する。これまで収集した1916年から1939年までの年次報告書の分析を引き続きすすめる。また,WEA機関誌の記事の考察や,戦時下に刊行されたパンフレットの分析をおこなう。合わせて,戦間期の機関誌とパンフレットなど不十分な箇所の史料調査,収集もおこなう。その成果を,戦時下における教育費削減をめぐる全体的な動きのなかでまとめる予定である。 次に,WEAに加盟していた全英教師組合側に残る史料を引き続き調査し、収集、分析する。TUCのexecutiveでの議論や機関誌の記事にみる主張を考察する。合わせて、TUCとWEAとが会議を合同で開催しているので,それに関わる文書の収集をおこなう。 総力戦体制のなかで戦費が増大し,様々な分野で経費が削減された。学校教育も例外ではなかった。実際に教職員が削減されるなどした。WEAとTUCは,何を主張したのか,どのような論理で教育費削減を反対したのか。かれらの議論を明らかにする。WEAの取り組みが教育費削減にどのような影響を与えたのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の遂行のためには,渡英して史料を調査・収集する必要がある。計画段階では,年度内に2回,渡英して史資料収集をする予定にしており,予算計上した。しかしながら,コロナ禍で当初予定していた4回の渡英が,1回しかかなわなかったため次年度使用額が生じた。次年度以降も引き続き旅費として使用し,渡英して史料収集をおこなう。
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