研究実績の概要 |
国外における批判的リテラシー教育論については、グリーン(Green,B.)らによって構想されている「リテラシーの3Dモデル」について検討を進めた。そこでは、リテラシーを「操作性」、「文化性」、「批判性」という三次元の相互連関において捉える教育論が構想されている。リテラシー教育を既存の文化への参加を通した言語スキルの獲得過程として捉える側面とともに、既存の文化を批判的に問い直す過程としても捉えられており、リテラシー教育の中に批判的リテラシーの形成を位置づけている理論的・実践的な研究動向であると言える。 また、国外におけるその他の主要な研究動向にも着目しつつ、批判的リテラシー教育の実践記録の収集を進め、その一部を検討した。 国内における批判的な学びについては、フレイレ(Freire,P.)のリテラシー教育論を受容する研究動向に着目し、関連する実践記録を検討した。授業を子どもの生活と結合させること、さらには、授業における教師と子どもとの関係性を問い直すことが授業づくりの課題とされ、子どもたちの声や経験の側から生活現実やテクストを複数的に問い、語り直していく学びが展開されている。 また、国内の同様の研究動向に位置づく他の実践記録を検討することを通して、子どもを「生活者」として捉え、子どもの声の中に子どもの生活を捉えていく仕組みを教室の中につくり出すこと、各教科・領域の授業を子どもたちの生活現実を問い直す学びへと再構成すること、学びの対象に関わる子どもの認識とともに、共に学ぶ他者に関わる認識の深まりをつくり出すこと、さらには、子どもへのケアと応答のある学びを構想することが、実践的な課題とされていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、批判的リテラシー教育に関わる国外の研究動向の検討をさらに進めていく。「リテラシーの4つの読みのモデル」(Luke,A. & Freebody,P.)や「リテラシーの3Dモデル」(Green,B.)、「批判的リテラシーの統合モデル」(Janks,H.)等、リテラシー教育の中に批判的リテラシーの形成を位置づけている主要な研究動向の比較検討をおこなうことを通して、批判的リテラシー教育の理論的な展開と課題を明らかにする。 さらに、批判的リテラシーを形成する授業と学びをつくり出している国外の実践記録を検討していく。特に、既に収集を進めているバスケス(Vasquez,V.M.)やその共同研究者らによる実践記録をはじめ、上記の主要な研究動向との関連の中で批判的リテラシー教育を展開している実践記録を検討していく。そのことを通して、それぞれの授業・教育実践の中に位置づいている教育方法の特質を明らかにし、その成果を研究論文としてまとめていく。初等教育段階をも視野に入れた批判的リテラシー教育の実践記録については、引き続き収集を進めていく。 また、国内の生活指導論の文脈において展開されている批判的な学びについては、引き続き実践記録の検討やフィールドワーク等を通して、その教育方法論上の特質や実践的課題を明らかにしていく。
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