研究課題/領域番号 |
21K02210
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
黒谷 和志 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40360961)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 批判的リテラシー / 教育方法 |
研究実績の概要 |
本年度は、バスケス(Vasquez,V.)による批判的リテラシー教育の実践記録を分析した。 バスケスの批判的リテラシー教育は、ルークとフリーボディ(Luke,A.& Freebody,P.)の「4つのリソースモデル」、ハースト(Harste,J.C.)の「ハリディ・プラス・モデル」、ジャンクス(Janks,H.)の「批判的リテラシーの統合モデル」を参照して構想されている。また、バスケスの批判的リテラシー論は、①テキストは社会的に構成されたものであり、②言語行為主体が特定の位置からテキストを読み書きすること、③テキストは書き換えられうるものであると捉える点に特徴がある。 バスケスによる教育実践の特徴の一つは、「日常のありふれたテキスト(everyday text)」を教材とし、その中で標準化されているものの見方を読み解き、それを再構成していく点にある。それ故にまずバスケスは、教室に持ち込まれる「日常のありふれたテキスト」の中に批判的リテラシーの実践を構想する契機があることに教師が気づくかどうかを問う。さらに、教室の中に持ち込まれる書き表されたテキストに加え、子どもたちが生活する公的な空間それ自体も、批判的に読み解き、書き換える対象とした教育実践を展開している。 またバスケスは、各教科の授業における批判的リテラシー教育についても探究している。それらの論考を検討し、テキストは社会的に構成され、書き換えられうるものであるという批判的リテラシーの特質を子どもたちが学んでいく各教科の授業が、どのように構想されているのかを分析した。 国内における批判的な学びの実践動向についても引き続き検討した。社会的課題を学びのテーマとした授業や、他者の声を子どもたちが読みひらく集団づくりとしての学びに加え、ケアとしての学びを構想する実践動向にも着目し、その記録の検討をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、批判的リテラシー教育に関わる国内外の研究・実践動向に着目し、それらの特質を明らかにすることを通して、批判的リテラシー教育を実践していくための教育方法を明らかにすることを目的としている。 初年度では、国外の研究動向としてグリーン(Green,B.)らによる「リテラシーの3Dモデル」に関わる文献を収集し、その理論的・実践的な特質について検討を進めた。さらに、批判的リテラシー教育の実践記録を、初等教育段階での展開を視野に入れて収集した。 本年度は、ルークとフリーボディ、ハースト、ジャンクスに依拠して批判的リテラシー教育を構想し、初等教育段階の教師として授業・教育実践をおこなってきたバスケスの実践記録を分析の対象とし、「日常のありふれたテキスト」を教材とした批判的リテラシー教育の特質を明らかにした。また、各教科の授業における批判的リテラシー教育の展開にも着目し、その授業記録を検討しているバスケスの論考も分析した。教科教育の中に批判的リテラシー教育を位置づけようとする授業実践の特徴と実践上の課題について分析を進めることができた。バスケス自身の教育実践の特質や、教科教育と批判的リテラシー教育との関連に関わるバスケスの論考の分析については、研究成果を学会で発表し、研究論文としてまとめている。 国内の生活指導論の文脈の中で展開されている批判的な学びについては、その理論的背景および教育実践の特徴について継続的に検討し、その成果を整理している。
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今後の研究の推進方策 |
批判的リテラシーを形成する授業・教育実践を構想・展開していくための教育方法を明らかにしていくために、バスケスや共同研究者らによる実践記録を引き続き収集し、それらについて分析を進めていく。特に、2年目に明らかになった以下の点について、検討を進めていく。 まず第一に、バスケスが教師として批判的リテラシー教育に関心を持ち始めた当初、コンバー(Comber,B.)の批判的リテラシー論やオブライアン(O'Brien,J.)の教育実践から影響を受けている点に着目し、これらの理論や実践について検討を進める。第二に、2年目の研究では、バスケスの「日常のありふれたテキスト」を対象とした授業・教育実践の記録をそれぞれ個別に検討するにとどまった。それぞれの授業・教育実践の間にどのような連関をもたせながら批判的リテラシー教育を展開しているのかについて分析を進めていく。第三に、バスケスらの論考を手がかりとして、批判的リテラシー教育が、子どもたちの基礎学力の獲得をどのように位置づけているかを検討する。批判的リテラシー教育では、子どもたちがテキストにアクセスし、それを読み解く基礎学力の保障が重要となる。バスケスらの実践構想の中に、この点がどのように位置づいているのかを検討する。第四に、バスケスや共同研究者らの論考を手がかりとして、学校の義務づけられたカリキュラム(mandated curriculum)との関連を保持しながら、教室の中に批判的リテラシー教育を展開する空間がどのように作りだされているのかを検討する。 また、国内の生活指導論の文脈において展開されている批判的な学びについては、引き続き先行研究や実践記録を収集し、 国外の批判的リテラシー教育の動向と比較しつつ検討を進めていく。
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備考 |
黒谷和志「多様な他者の声と出会う学び」全国生活指導研究協議会北海道支部編「会員通信 秋冬号」、2022年12月。(『北海道の生活指導』第27号(全国生活指導研究協議会北海道支部編、2023年、136頁)に所収)
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