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2021 年度 実施状況報告書

学習環境デザインを支援する教室談話研究の拡張

研究課題

研究課題/領域番号 21K02213
研究機関東京大学

研究代表者

藤江 康彦  東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (90359696)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード教室談話 / 社会構築主義 / アクターネットワーク理論 / ニュー・マテリアリズム
研究実績の概要

社会構築主義、批判的実在論、アクターネットワーク理論、活動理論等を中心に理論的検討を進めた。社会構築主義はこれまでの教室談話研究がその基盤としてきた考え方で、「現実」は人々の交渉の帰結でありディスコースのなかにのみ存在するとみなす。批判的実在論は、世界は人々の知識からは独立して存在するという立場に立つ点で社会構築主義とは対立するが、われわれの経験や事象の背後にある構造を重視する点は、社会構築主義に対しては示唆的である。人々の活動やディスコースが構造に規定されているとともに人々は構造を利用したり再生産したり再構築したりするといった双方向の関係にあるともいえるからである。もとより、構造は人々がそれを制約として意識することで実質化するといえるだろう。授業において行為者は、当人なりの意志と発話スタイルをもって集団活動としての授業に参加しようとする。一方で、集団には学習課題の解決に向けた秩序ある教室談話の成立が求められる。その背景には「集団性」や「発話順行性」といった学校教育の授業を支える制度的装置が「構造」として存在する。個人の学習過程と協働的課題解決システムとしての授業がともに成立する過程において「集団性」や「発話順行性」といった制度的装置は構造として子どもや教師の行為を規定する反面、個人の経験や行為に具象化される。つまりルールとして外在化や可視化が可能であると同時に、個人の行為において様式として採用され実際に使用されることでルールとしての機能を果たしているのである。さらに制度的装置の表れは社会集団に特殊でローカルであり、社会集団のローカルな実践において「制度」が実体化、可視化され、教室における多様なアクターの主体性との相互規定によって具体的な行為としてあらわれるだろう。以上より、授業の活動システムにおいて構造と個人の行為や文化との関係を描くことができることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2021年度は、COVID-19による感染症の拡大に対する懸念から、計画していた小中学校におけるフィールドワークを実施することができなかった。しかし、フィールドワークや採取したデータの整理や分析、論文化などに充てるべき時間に、本研究課題における理論構築や分析視点に関連する理論について検討を進めた。その結果については、データに基づく学会発表や論文執筆はないものの、理論的検討を執筆原稿に反映させることができた。これらのことは、今後、研究を進めデータを分析しその結果を論文化する過程において有用であると考える。また、研究協力を得る予定の学校や教師との関係構築を並行しておこなった。今後研究協力を円滑に得ることができるよう努めた。そのため、「やや遅れている」と判断した。

今後の研究の推進方策

2022年度以降は、小中学校におけるフィールドワークを計画的に推進する。具体的には、以下の通りである。①特定の学級を決めて、定点観測的にフィールドワークをおこなう。授業や休み時間などその学級における子どもたちの活動を観察するとともに、教師へのインタビューをおこなう。②①とは別に学年、教科、単元等を決めて短期的なフィールドワークをおこなう。同一時期に複数のフィールドワークが重複しないようにする。①により、特定の学級の社会的文化的物質的環境における学習者の学習の様相をとらえることを通して、授業において行為者が、当人なりの意志と発話スタイルをもって集団活動としての授業に参加し、一方で集団に求められる学習課題の解決に向けた秩序ある教室談話の成立の両立に向けて生成する行為が教室における多様なアクターの主体性との相互規定によって具体的にあらわれる様相をより緻密に記述していく。また、②により、特定の教科内容や教材と学習者との関係をとらえることを通して、学習者がどういったアクターにどういった価値づけをするのか、自分とアクターとの間にどのように意味ある関係を見いだしているのかをとらえること、学習者の実践に、どういったアクターがどういった制約を与えるかをとらえること、学習者は制約の意味や価値にどのように気づくか、をとらえることが可能となるだろう。

次年度使用額が生じた理由

2021年度は、COVID-19による感染症の拡大に対する懸念から、計画していた小中学校におけるフィールドワークを実施することができず、調査に使用する機材や消耗品等、旅費の支出がなかったため次年度使用額が生じた。2022年度以降は調査に使用する機材や周辺機器、消耗品等を計画通り購入するとともに、調査フィールドに移動するための旅費の使用を計画的におこなう。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 学校心理学に関する研究の動向と課題:心理学研究と学校教育研究の架橋のために2021

    • 著者名/発表者名
      藤江康彦
    • 雑誌名

      教育心理学年報

      巻: 60 ページ: 104~121

    • DOI

      10.5926/arepj.60.104

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [図書] これからの教師研究:20の事例にみる教師研究方法論2021

    • 著者名/発表者名
      秋田喜代美・藤江康彦ほか
    • 総ページ数
      324
    • 出版者
      東京図書
    • ISBN
      978-4-489-02362-0

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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