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2023 年度 実施状況報告書

近代転換期日本における教育者の宗教観と宗教者の教育観の形成:その関係的状況の分析

研究課題

研究課題/領域番号 21K02219
研究機関岡山大学

研究代表者

梶井 一暁  岡山大学, 教育学域, 教授 (60342094)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード人間形成 / 教育史 / 仏教 / 咸宜園 / 留学生
研究実績の概要

日本における近世・近代移行期は、教育と宗教が混交し、人々の見方や行動のあり方に資する状況があった。教育と宗教は、ともに人間形成文化の要素であった。この問題の関心と設定により研究を進め、主に下記を行った。
第1に、仏教僧侶が近世教育全体に特色的な傾向である「遊学」のなかにあり、近世後半の僧侶の学習状況として、士庶とともに私塾に学ぶあり方を考察した。豊後国日田の咸宜園は近世最大の漢学塾として知られ、多くの僧侶、とりわけ真宗僧侶が入塾している。うち美濃国と伊勢国から咸宜園に遊学した僧侶に着目し、二人が親戚関係にあることを把握した。真宗僧侶は社中というネットワークを形成するが、このような人的関係に親戚関係なども重ねて、国許を離れる遊学の契機が生じていることを検討した。国元の寺院側の史料を調査中である。
第2に、近代に入ってからの社会におけるアジア的な展開に着目し、20世紀前半、モンゴル地域から赴日する留学生について調査した。モンゴル地域では、伝統的に仏教寺院が、信仰としての仏教とセットで、学問としての医学を担ってきた。善隣高等商業学校とその生活の場である学寮を事例に、モンゴル人留学生の学習と生活について、雑誌資料などを用いて考察した。この学校は宗教学校ではないが、モンゴル人留学生が有する文化、宗教、信念などが、彼らの日本での学習や生活に影響していることが把握された。教育成果が、単に知識や技術の伝達の方法的工夫だけでなく、背景としての文化や宗教などの価値的な部分の理解や共感によるところが大きいことを論じた。教育交流史が制度や方法の面だけでなく、文化や精神の面にかかわって探究される必要を指摘できる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

第1に、近世後半の仏教僧侶の学習状況として、遊学のあり方を、咸宜園に学ぶ真宗僧侶を軸に調査している。咸宜園側の史料については、これまで咸宜園教育研究センターなどで整えられている。寺院側の一次史料については、個別に独自調査をはじめたところである。地方史料としての寺院所蔵史料は、寺院は歴史のなかで災害にあったり、後継者に恵まれなかったり、史料の伝存が難しい場合が多い。今回は岐阜県と三重県の寺院を対象としており、現存する寺院であるが、まだ十分に史料を得ることができていない。調査を継続したい。
第2に、漢字文化圏としてのアジアの学びの観点から、学問としての仏教や儒教に関する教育とその施設について調査を試行した。ベトナム(ハノイ)に残る教育史跡を部分的に観察・調査したが、まとまった考察を行うにはいたっていない。
第3に、近代西洋の大学に留学した仏教僧侶の動向を分析したいと計画しているが、一次史料を収集できていない。近世学寮・学林での学習経験を有し、かつ近代西洋の大学に留学した僧侶を事例に、日記や手紙などから、近世と近代をまたぐ教育経験の接続・断絶の意味を把捉したいと考えている。

今後の研究の推進方策

研究の基本として、一次史料にもとづく実証研究を進めるが、史料の収集状況により、二次史料の活用を図り、全体としての研究課題の遂行に努める。
第1に、日本における近世・近代移行期の教育と宗教をめぐる大きな状況は、ヨーロッパとの本格的な出会いと、アジアの再発見である。近世後半に仏教を漢訳で学んだ僧侶が、近代にイギリスやドイツに留学し、文献研究や比較言語学などの方法を学び、近世日本で自明とされてきた漢訳仏典の内容を捉え直す動向があった。また、漢訳以前の仏教を求め、インドやチベットをめざす動向があった。とくに前者の動向を捉えることを課題としたいと考えており、イギリスなどでの調査を計画する。
第2に、国内の調査として、近世後半の僧侶の学習状況について、士庶の私塾遊学動向のなかに位置づけられるようにする。咸宜園に学ぶ僧侶を事例に検討し、国元の寺院に伝存する史料の掘り起こしに努め、考察をまとめたい。
第3に、近代教育を担う学校教員の価値観の一端として、宗教や科学に対してどのような見方や考え方をもっていたのかについて、雑誌記事などを通じて検討したい。たとえば、雑誌『変態心理』(刊行物)などに教員執筆の記事が散見され、その特色や傾向を検討していくことを計画する。

次年度使用額が生じた理由

第1に、十分な史料調査と分析を行うことができなかった。一次史料の調査にもとづく実証研究の遂行を図ることを基本と考えるが、国内外で史料調査を実施するための機会と時間を確保できなかった。たとえば、国内では地方史料としての寺院所蔵史料を重視しているが、近年のコロナ禍の期間に、協力寺院との連絡関係が薄れてしまった側面がある。再度、史料調査の計画を見直し、対象寺院の協力を得られるように相談・調整する。また、一次史料の調査とともに、二次史料の幅広い収集・活用も図り、史料を補いたい。
第2に、収集した史料を保存・分析するため、一定水準のスペックのデジタル端末の購入を計画していたが、入手に及ばなかった。史料調査を進めるとともに、必要なデジタル端末の構成を見直し、適切な端末の購入・利用を検討する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 赴日モンゴル人留学生史研究序説:戦前期善隣高等商業学校蒙古留学生特設予科を中心に2023

    • 著者名/発表者名
      梶井 一暁、包 雪峰
    • 雑誌名

      岡山大学大学院教育学研究科研究集録

      巻: 184 ページ: 1~8

    • DOI

      10.18926/bgeou/66127

    • オープンアクセス
  • [図書] 新初等教育原理(改訂版)2024

    • 著者名/発表者名
      佐々木正治編
    • 総ページ数
      226
    • 出版者
      福村出版
    • ISBN
      9784571102059

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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