研究課題/領域番号 |
21K02249
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
井藤 元 東京理科大学, 教育支援機構, 教授 (20616263)
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研究分担者 |
山下 恭平 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 助教 (30855622)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シュタイナー教育 / 脳波測定 / シュタイナー学校の音楽 / シュタイナー学校の手仕事 / フォルメン線描 |
研究実績の概要 |
シュタイナー教育の実践は世界的に高く評価され、広く受容されているものの、シュタイナー教育の実践を支える独自の思想(人智学)は秘教的色合いが強いため、容易に接近することができず、学術的調査が十全には進められていない。そうした現状に鑑み、筆者らはこれまでシュタイナー教育の意義を科学的アプローチにおいて明らかにする研究を進めてきた。とりわけ、シュタイナー教育独自の実践であるフォルメン線描、ぬらし絵、オイリュトミー、楽器演奏中にリアルタイムで脳波測定を行うことにより、実践者の状態(集中、安静、興奮、論理的思考)を分析することを通じて、シュタイナー教育の実践の分析を試みてきた。本年度は、そうした試みの一環として、シュタイナー教育における「音楽」「フォルメン」「手仕事」の特質を分析した。音楽はシュタイナーの教育実践において核として位置づけられるべき最重要科目の一つであり、実践の至るところに音楽があふれている。また、手仕事に関しても、フォルメンやオイリュトミーと並び、小学校1年生からシュタイナー学校のカリキュラムに設置されている重要科目である。 2021年度の研究成果は、以下に示す通り、学会発表2回と研究論文2本のうちに結実した。学会発表:①「フォルメン線描における呼吸数、心拍数と脳波の関係」日本教育学会第80回大会(筑波大学(オンライン開催))、②「脳波測定を通じたシュタイナー幼児教育における楽器演奏の分析」日本ホリスティック教育/ケア学会研究大会(名古屋市立大学(オンライン開催))。 研究論文:①井藤元・山下恭平「フォルメン線描における呼吸数、心拍数と脳波の関係」『東京理科大学紀要(教養篇)』第54号、2022年。②井藤元・山下恭平「脳波測定をつうじたシュタイナー教育における「手仕事」の分析」『東京理科大学 教職教育研究』第7号、2022年。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄に記した通り、2021年度は、主にシュタイナー教育における「音楽」「フォルメン」「手仕事」に焦点を当て、分析を試みた。音楽に関しては、シュタイナー教育において楽器演奏がもたらす効果を、演奏者と聴き手の脳波測定によって明らかにした。すでに拙稿「シュタイナー教育における楽器演奏時の脳波の分析」において楽器演奏がもたらす効果を、演奏者の脳波測定によって明らかにすることを試みたが、本年度は被験者に聴き手(観衆)を加えることで、楽器演奏者と聴き手の脳波を同時に測定し、比較検討を行った。演奏者はシュタイナー教育幼稚園にて長年にわたる音楽教育実践の実績を有している楽器演奏者とし、聴き手は専門的な音楽の訓練やシュタイナー教育を受けたことのない成人とした。脳波の測定を行った楽器はシュタイナー教育における代表的な楽器(様々な形状のライアー、グロッケン(鉄琴)、木琴、フィンガーシンバル、クーゲル、笛)である。それぞれの楽器ごとに演奏者と聴き手の脳波がどのような状態になっていたか、分析を行った。 また、筆者らは以前からフォルメン線描の分析を行ってきたが、本年度は、フォルメンの意義をより深く解き明かすために、実践者の脳波に加えて、呼吸数と心拍数を同時測定し、多角的に考察を行った。 さらに、シュタイナー教育における手仕事の意義を検討すべく、羊毛を用いた手仕事(糸紡ぎ、指編み、鳥の作成)実践時の脳波測定を行い、各被験者の脳波がいかなる状態となっているかを分析した。本研究をつうじて、手仕事において繰り返し実践者が同じ作業を行い、作業が身体化されるにしたがって、実践者のうちには落ち着きと集中がもたらされることが示唆された。本研究により、シュタイナー教育において低学年の段階で比較的単純な作業を繰り返し行うことが重視されていることの裏付けが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は2021年度に引き続き、シュタイナー教育の音楽の意義に焦点を当てるべく、シュタイナーの音楽療法の専門家の協力を仰ぎ、研究を進めていきたい。音楽療法では、声の発声のみならず、ライアーや打楽器、笛など、非常に多くの楽器が用いられるのであるが、音楽療法で使用される様々な楽器に注目し、その楽器を演奏している最中、あるいは音楽を聴いている最中の脳波を測定してゆく。 その研究成果については日本ホリスティック教育/ケア学会において発表し、『東京理科大学 教職教育研究』に投稿予定である。 また、今後、本研究を深めていくためには楽器演奏時の児童、生徒の脳波を測定するということも必要となってくる。被験者の数自体も増やし、様々な年齢層において脳波の違いを見ていく実験も進めていきたい。 さらに、手仕事についてもさらなる検討を行う予定である。高学年において実施される木材や粘土、金属素材などを用いた複雑な手仕事において実践者がどのような脳波を示すのか、今後の研究において計測を行いたい。また、2021年度は素材を羊毛に限定して実験を行ったが、今後は羊毛などの柔らかい素材ではなく、硬質な素材を扱った場合、実践者の脳波がいかなる状態にあるか、計測を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は新型コロナウィルスの影響で、脳波測定の実験を予定通り行うことができなかったこともあり、次年度使用額が生じてしまった。2022年度も引き続き、新型コロナウィルスの影響により、急な予定変更を余儀なくされる事態が生じることも予想されるが、コロナの感染者数が落ち着いている期間に、可能な限り研究を進めることにしたい。
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