本研究は、貧困・経済的困窮のもとで、社会的自立をめぐるさまざまな困難に直面している子ども・若者を支える教育実践・支援とはどのようなものであるか、またそうした取り組みを包摂しながら、子ども・若者が未来への見通しをもって生活し、自らの人生を当事者として生きぬくことを支えるような地域とはどのようなものであるのか、学校内外の多様な領域において取り組まれている支援実践にそくして、明らかにすることを目的としている。また特に地域経済の疲弊が著しく、貧困・社会的格差に基づく不利が集中している都市の典型であるとともに、依拠しうる社会的・人的資源が限られている中で、困難を抱える子ども・若者への先進的な自立支援に取り組んでいる、北海道釧路市(およびその周辺地域)を主たる対象地域として調査研究を展開した。研究期間を通して明らかになったのは以下の点である。 1)釧路市では、これまでの子ども・若者支援実践の蓄積を踏まえ、いままで支援の手が十分に行き届いてこなかった孤立している若者や、さまざまな理由で就労等の社会参加から排除されてきた若者たちへの新たなアプローチや支援の模索と実践が始まっていることが明らかになった。 2)特に特徴的であったのは、困難を抱えた子ども・若者が一方的に支援・援助の対象となるにとどまらず、自らの成長や回復、それぞれの条件に応じた社会的な参与等を通して、地域の高齢者や障害を持つ人々の生活支援や、地域づくりの担い手になるといった新たな試みが生まれていることであった。 3)同時にこうした若者支援の試みが、より広範な地域社会の創造につながるためには、地域で試みられているさまざまな「仕事づくり」や「居場所づくり」との間に、相互に支えあるようなネットワークを形成し、若者たちが新たな地域づくりの担い手として活躍できる場を保障すること、地域もまたその存在・活動に応答することが必要であることを提示した。
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