研究実績の概要 |
本研究は、地域づくりにおいて住民が「後継者」になっていく過程を学習の過程として明らかにするものである。 初年度である今年度は、社会教育・成人教育研究を中心とした先行研究の収集・分析を進め、人びとが地域づくりの後継者になる学習の過程を理論的に整理した。まず、地域づくりにおける後継者の学習を、彼らの地域コミュニティや実践への「参加」の問題として把握し、国際的な成人教育研究における参加論を検討することによって、成人教育研究における理論的な到達点と課題を抽出した。成人教育への参加は「制約のあるエージェンシー」(bounded agency)という概念により、人びとと構造との相互作用として把握されてきており、後継者育成はこのエージェンシーをめぐる課題であると提起した。以上の内容について、9月に日本社会教育学会にて口頭発表を行った(松本大・安藤耕己「持続可能な地域づくりにおける後継者の〈生〉と学習」日本社会教育学会第68回研究大会自由研究発表)。 次に、日本社会教育学会での研究発表をふまえ、地域づくりにおいて構造化された主体がエージェンシーを達成するための学習方法として、日本の「地元学」と呼ばれる人びとのバイオグラフィカルで共同的な実践を分析した。後継者育成という観点からみると地元学には世代的観点が必要であることを指摘しつつ、地域づくりにおける後継者の学習に「世代的エージェンシー」(generational agency)という概念を提起した。以上の地域づくりにおいて人びとが後継者になるときの学習の過程と方法に関する理論的研究は、『Annual Bulletin, Graduate School of Education, Tohoku University』に論文として発表した(Matsumoto, D., & Ando, K. (2022). Jimotogaku and Generational Agency: The Learning and Participation of Community Development Successors in Japan)。
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