研究課題/領域番号 |
21K02266
|
研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
木下 慎 都留文科大学, 文学部, 講師 (10803257)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 学校 / デモクラシー / ケアリング / 主体 / エージェンシー / 信頼 / 自由 / 脱構築 |
研究実績の概要 |
本年度は、ジャン=リュック・ナンシーらの現代哲学の観点から教育の共同性を再考していくための前提作業として、共同性をめぐる近年の教育哲学の研究動向を整理することに努めた。具体的には、教育哲学の分野で、近代教育で中心的な位置を占めている学校という共同体の場がいかに語られてきたのか、また共同体に対して主体はどのような位置づけを与えられてきたのかについて、研究動向の整理を行った。いずれの文脈においても、20世紀後半に台頭した近代教育批判の成果を受容しながらも、学校批判や主体批判を超えて、学校論や主体論を改めて肯定的に語り直す傾向が明らかになった。学校論については、デューイのデモクラシー論やノディングズのケアリング論を土台に学校共同体の立て直しを試みる動きが見られる。また、主体論については、アーレント、レヴィナス、ランシエールの主体概念を用いて、主体やエージェンシーを肯定的に語る議論が見られる。なかでも、脱構築以降の教育哲学を構想するうえで、ガート・ビースタの議論は近年注目を集めている。簡潔に述べれば、彼の構想の土台にあるのは、世界と他者に実存的に開かれた教育の関係性である。そこでは、本来、教育を支える「自由」や「信頼」や「責任」とは何かが根本的に問われているはずだが、これまでのところ哲学的な議論が尽くされているとは言い難い。教育の脱構築から再構築へという安易な図式を避けるためには、構築が展開されるところの開かれた場について哲学的な考察が必要である。それは、ハイデガーからデリダやナンシーに引き継がれた20世紀の脱構築の哲学を、“ポストモダニズム”という一時の流行として済ますのではなく、西洋哲学の批判的継承の試みとして、21世紀の教育哲学がいかに引き継げるかという課題に繋がっている。ナンシーの共同体論はその結節点となりうる哲学であるという展望を得られたことが本年度の成果と言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脱構築以降の教育の共同性を考察するための前提作業として、教育哲学のこれまでの研究動向を整理できたという点では大きな進展が見られた。特に、近代教育批判の主要なテーマであった学校と主体について、従来の研究成果とその課題を確認できたことで、翌年度以降の研究を進めるための展望が得られた。しかし、コロナ禍に加えて、研究対象に据えていたジャン=リュック・ナンシー氏の突然の訃報にみまわれ、本人にインタビュー調査を行うという当初の計画の見直しを余儀なくされた。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の理由により、今後の研究としては、国内外から取り寄せた文献の読解を中心に進めていくことを検討している。近年刊行されたナンシー思想研究の文献を含め、関連文献の収集は順調に進んでいるため、その集中的な読解を進める。初年度の研究成果を踏まえたうえで、二年度目はナンシーの哲学の内実に迫り、教育哲学の議論への積極的な接続を試みたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染状況および研究対象者の訃報により海外出張を取りやめ、国内での研究活動が中心となったため、次年度使用に当てる繰越金が生じた。次年度は資料収集・整理と研究成果の報告に割り当てる金額を拡充するなどの対応を行いたい。
|