研究課題/領域番号 |
21K02291
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
楠山 研 武庫川女子大学, 教育学部, 准教授 (20452328)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 在外教育施設 / 日本人学校 / 補習授業校 / 華人学校 |
研究実績の概要 |
本研究は、全世界に展開し、現地教育にも積極的に浸透している中国系学校・補習授業校の分析を通じて、従来の「日本に帰国する子どもたちのための教育」という原則がゆらぎ、変容しつつある日本の在外教育施設の今後のあり方の具体像を示し、持続可能なコミュニティ構築への一助とする試みである。文献調査と現地調査を核として進めていく研究であるが、第1年度に引き続き第2年度も、コロナ禍により現地調査が不可能であったため、文献資料に基づき、研究計画の具体化につとめた。 そのなかでこれまでの調査分析を踏まえ、海外に在留する日本人の子どもに日本国内と同等の教育を実施することを目的とする日本の在外教育施設である日本人学校と補習授業校の全体的概要と現状、今後の見通しについて論文にまとめた。これらの教育施設はこれまで、主に将来的に日本に帰国する子どもたちに向けて、帰国した際に日本の学校に適応できることを主たる目的のひとつとして教育が行われてきた。しかしグローバル化の進展により、国・地域によってはその海外滞在目的が長期滞在から永住へと移るといった動きがみられ、現地校や国際学校のみに通う子どもの割合が増加すると同時に、とくに補習授業校においては授業の内容やコース分けを巡る動きが生じていることを明らかにした。ここにコロナ禍での動きも絡めつつ、今後の日本の在外教育施設像について検討した。 コロナ禍において、家庭でも教育が受けられる体制が整ったことにより、日本人学校・補習授業校のライバルは、現地校や現地にある塾などの日本の教育をおこなっている施設だけではなく、世界中のあらゆる教育施設ということになった可能性があり、本研究の新たな視点の一つとして加えていくことになると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き今年度もコロナ禍により現地調査を実施できなかったが、それは計画段階である程度予想できていたため、代表者がこれまで実施してきた研究を土台として、文献研究や情報の収集・整理に力を注いだ。コロナ禍のなか、世界的に現地学校を含めてウェブサイト上での情報発信量がかなり増加しているため、今年度も想定以上にかなりの量の情報を収集し、整理することができた。日本の在外教育施設である日本人学校と補習授業校について、その歴史、現状と課題、今後の見通しについて整理し、まとめたことにより視点が明確となり、今後の華人学校を含めた調査がより順調に進むと考えている。現地調査についてはこれまで、感染拡大状況や各地の対策の確認に加えて、とくに本研究は学校訪問など児童生徒と関わる可能性があるものであるため、一層慎重な姿勢で検討を進めてきた。次年度はこれがほぼ解消される見込みがたったため、すでに年度終了時点で具体的な調査地の選定や対象学校の絞り込みの段階に入っており、条件が整えばすぐに実施できる状況になっている。これらを活かし、第3、第4年度は積極的に現地調査を実施し、成果を上げていける状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
第1、第2年度は文献調査中心となったため、第3年度は年度当初から現地調査の準備を進めることに重点を置き、並行して国内でできる学校訪問調査やインタビュー調査の実施に向けて準備を進める。同時に研究の枠組みを明確にしていく作業も継続していく。文献調査については、とくにコロナ禍およびポストコロナの対応について今年度もある程度の情報を収集できているが、今後さらなる新しい情報や出版物・著作物が増えてくると予想されるため、中国系学校、日本人学校等ともに新しい情報を組み込みつつ、より精度を高め、現地調査準備と同時並行で、研究枠組みを再構築していく。コロナ前までの動向、コロナ期の対応状況、ポストコロナの方向性を明らかにすることで、本研究の重要な視点である持続可能なコミュニティ構築の分析に活かしていきたい。 現地調査については、今年度終了時点である程度完了している準備をさらに進め、実際に実施することになる。具体的には、情報収集結果に基づいて本研究の趣旨に合致する機関を選択し、訪問を打診し、実行にうつす。調査のポイントは、カリキュラムとクラスのレベル分けの状況(永住者向け、帰国者向けなど)、その変容状況(コロナ前までの動向、コロナ期の対応状況、ポストコロナの方向性)などになり、各学校長、事務長、教員へのインタビューを中心に、必要に応じて在学者、保護者、理事会員からの情報収集をおこなう。これに加えて、中国系補習授業校による現地教育制度への浸透策の動向をその変化も含めて把握し、学校を中心とした持続可能な現地コミュニティ構築、国内を含めて多様な子どもを受け入れられる日本の学校像への示唆を得ることをめざす。訪問調査後は、調査結果を整理しつつ、どのような背景をもつ子どもがどのような「学びの選択」をしているかモデル化の試みと研究枠組みの手直しをおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は文献調査と現地調査を核としているが、コロナ禍により予定していた現地調査が実施できなかったため、次年度使用額が生じている。年度中盤から地域によっては現地調査が再開されていたが、本研究は学校訪問等を含むものであるため一層慎重に検討を重ねた結果、本年度は実施せず、次年度への準備に重点を置いてきた。
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