研究課題/領域番号 |
21K02323
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
武内 裕明 弘前大学, 教育学部, 准教授 (50583019)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 自由保育 / 指導計画 / 『保育専科』 / 1980年代 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,自由保育論が主要に展開された『保育専科』と『保育の手帖』を対象とし,自由保育論の受容過程を自由保育をめざす「運動」として捉え直し,1964年から1989年の期間における自由保育の受容過程を実証的に検討することである。 令和3年度には,1980年度から1984年度の『保育専科』の連載記事「指導計画と指導の実際」に着目し,自由保育の受容実態を検討した。この時期は自由保育という発想が普及し,次第に批判を集め始める時期に当たる。この時期の自由保育受容で共通している部分としては,1)個人差への配慮,2)一対一の対応の重視,3)興味や意欲を育むことの強調,の3点が挙げられる一方で,のびのびすることの強調,無理強いしないという発想,見守るの用法などには,園の指導形態などによって差が見られた。制約の強い保育を実施していた場合には従来より自由で汎用的なコンピテンシーと具体的な活動で得られる知識・技能のバランスを取ろうとする指導計画となる形で,自由な保育を従来から志向しかつ明確な保育観をもたない場合にはそれまで以上に自由であるために教育内容や手続きの不明確な指導計画となる形で,自由な保育を志向している場合でも明確な保育観がある場合にはその価値観を保育者の配慮などに詳述し教育意図の明確な指導計画となる形で,自由保育は受容されていた。 また,自由保育の普及に対して指導計画がどの程度有力なメディアであったのかを解明する一環として,0~5歳児生活内容研究会の1983年度の保育指導計画を検討した。この指導計画では,保育者の配慮や留意点を詳細に記述することで従来の保育に対する批判的意識や本吉らの実践を通じた保育観を示すことには部分的に成功したが,抽象度が高い記述ではほかの指導計画と十分に区別できなかった。そのため,この時期の指導計画は自由保育を伝達する補助的なメディアであったと評価できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は,これまでの筆者の研究で1970年代の自由保育に関する議論や,本吉,立川などの連載記事の分析が進んでいたことから,主に1980年代の自由保育の受容実態を解明することを試みた。1980年代になると自由保育と一斉保育を対立的に見る発想に対する批判が『保育専科』内の記事でも頻繁に登場するなど,自由保育の理念は一般に普及すると共に,安易に自由に活動すればよいといった受容がなされることへの批判が進む,自由保育の普及期に当たる。これまで自由保育の唱道者の発想は検討を重ねていたため,本年度は自由保育の理念の普及期の指導計画を対象として,自由保育の受容実態の分析と,指導計画の自由保育普及への影響の程度の検討を行った。補助金交付前に申請していた発表がその他1件あるが,交付後に研究内容は2つの学会で発表し,それらの成果を2本の論文にまとめている。 これらの結果から,自由保育がどのような形で受容されていったのかという結論部分に関しては,影響がそれまでの保育でめざすものによって差がみられたという結果が得られ目途が立った。 研究対象期間の初期の時期に関しては,利用できる資料に欠損があり,新型コロナウイルス感染症の影響もあり出張などに制約があったこともあり,今後研究を進める予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間である令和4年度・令和5年度を通じて,『保育の手帖』での主要な成果や自由保育的発想がどのように議論されていたのか,保育問題研究会の集団主義的な発想から何が受け継がれ,どのような部分に変化が認められたのかを検討していく。 これらの成果の検討に当たり,検討雑誌での掲載内容が本となっていく三木安正の『年間保育計画』や大場牧夫らによる『幼児の生活とカリキュラム』は重要な検討対象となる。大場のカリキュラムが三木らの指導計画の影響を受けていることは広く知られているところであるが,これらを自由保育思想の展開という観点から検討することを予定している。また,自由保育論の中心論者となる平井信義と海卓子らによる3歳児の指導計画も,検討の価値のある重要資料である。指導計画として結実した主要な人物による自由保育受容の実態を検討すると共に,1970年代までの自由保育の議論でどのような点が論点となり,どういった立場が存在していたのかも検討の必要がある。 検討のために,現在手元にある資料から確認を進めていき,新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて,可能な時に未所有の資料を検討するための出張を行うことを計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新型コロナウイルス感染症の影響により学会がオンライン開催となったこと,感染状況の広がりに伴う移動の自粛などにより国会図書館への出張が行えなかったこと,雇用を考えていた学生の利用なども人を集めての作業が難しかったことが,次年度使用額が生じた理由である。 (使用計画) 今年度は,学生雇用による資料整理は感染症の流行状況を見極めながら昨年度分も含めて実施を計画している。学会への出張費用に関しては,学会の開催形態などによって変動するが,資料の検討が必要なため,感染症との兼ね合いを考慮しつつも資料収集のための出張は実施をしていくことを計画している。また,主要な検討資料として扱う『保育の手帖』『保育専科』などの検討の精度を高めるためにも自由保育運動の検討に必要な資料の収集は継続することで研究内容を充実させていく。
|