令和5年度には,平井信義,鈴木とく,大場牧夫の著作から,自由保育的発想がどのように形成されその特徴をもつに至ったかを検討し,自由保育論の中心的な主張者であった平井信義の自由保育論の基盤が鈴木とく,阿部明子との3歳児保育の研究などを経て形成されたこと,鈴木とくの保育論は自由保育に繋がる論点をもちながらも,3歳児に関しても集団との折り合いをつけ,協力し合う関係を志向する点で集団と個の関係を強く意識したものであったこと,大場牧夫編著の『幼児の生活とカリキュラム』(1974)では,領域の総合性や集団生活の発展を意識した点で三木安正らの『年間保育計画』の成果を継承しながらも,集団としての望ましさよりも個の思いを重視する点で個を中心とする自由保育的発想と親和的であったことなどを明らかにした。 本研究期間全体を通じて,自由保育的発想の萌芽は集団主義的な保育を志向した三木安正らの保育内容研究会や鈴木とくらの発想の中にすでに存在し,集団としての望ましさよりも,個の思いをより重視する発想に至ることで自由保育的な発想に近づいて行ったことが確認できた。自由保育的な発想は集団主義の保育の成果と,より個の思いを重視すべきだと考える人々の間で形成され,賛同を集めていった「運動」として捉えられる。この立場は1980年代初頭には広く受け入れられる立場になり,同時に批判を受けることになった。それは,より自由な保育をめざす理由によっては,教育内容や指導の手続きを不明確化させたためであった。より自由な保育が必要だと考えるに足る明確な課題意識があったり,制約の強い保育が行われていたりした場合には有効に機能した自由保育であったが,「のびのび」「無理強いしない」などの子ども中心的発想のみを受け入れなぜより自由な保育が望まれるのかが不明確な場合には保育者の介入を望ましくないとする風土を形成する要因となった。
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