研究課題/領域番号 |
21K02327
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
稲垣 卓司 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (80176388)
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研究分担者 |
樋口 和彦 広島修道大学, 人文学部, 教授 (80710110)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 愛着障害 / 発達障害 / 保育士 / 幼稚園教諭 / 児童養護施設 / 支援 |
研究実績の概要 |
申請者らは、前年度までの研究期間に、子どもの呈する問題行動が「愛着の問題によるものか?それとも発達障害による特性によるものか?」という鑑別に注目して調査研究をしてきた。子どもが問題行動を示しても、両者の鑑別の視点がないと、対応の仕方は異なり、支援者が正確に見極めて適切な言葉かけや関わりを示すことができないと思ったことが動機である。鑑別の視点をもつことは、支援内容を決定づける重要な問題にもかかわらず、具体的にこの問題に対する知見が少ない。 そこで申請者は、昨年度までの研究で発達障害と愛着の問題のある問題行動特性との鑑別点を明らかにすることを目標に、以下の2つの研究をおこない、①②の結果を示した。 ①保育士、幼稚園教諭を対象に二つの特性の違いをアンケート調査した。その結果、愛着に問題のある子どもの言動では、「自己アピール言動」、「衝動的言動」、「愛情試し言動」が特徴として抽出され、発達障害の子どもの言動と区別のつきにくいものとして、「状況によって多動であったりなかったりする」や「繰り返す行動(頭を打ち付けるなど)」、「なかなか収まらない激しいパニック攻撃」などが明らかとなった。 ②児童養護施設の相談職員を対象にインタビュー調査を行い、質的研究をおこなった。愛着障害のカテゴリーに「愛情欲求」、「アピール行動」、「試し行動」、「意図的な言動」、「親への愛情欲求」などが抽出された。発達障害のカテゴリーに「独特な対人関係」、「見通しが持てない」、「学習の課題」、「感覚過敏」、「パニックの状況」が挙がり、これらが鑑別点として有用であった。そして、「対人関係のつまずき」、「気持ちの表現が苦手なこと」、「衝動コントロールができないこと」、「ルールが守れない」ことは両障害に認められ、鑑別が難しい点として示された。 これら鑑別点から、支援内容を検討していく着眼点を提示できたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
島根県内で研究 協力施設がありアンケート調査が実施できた。 2021年度から2022度にかけて,は「研究対象者の実態の把握」と「問題行動10パターンの鑑別の完成」の目標を立て,幼稚園・保育園職員に対するアンケート をおこなった。そして,児童福祉施設の職員からの口述・聞き取り調査を行ってきて学会発表、論文掲載まで至っている。 しかし、現状は把握できたものの、上記研究では保育園・幼稚園が主な対象であり、学校現場での状況は把握までは至っていない。このため、次には学校現場(特に小学校)において実態の把握と、教員が具体的にどのような点に困っており、どのような対応の工夫をしているかを調査、検討がまだ進んでいない。小学校に対象を広げることで、より学校現場に具体的な指導・支援方策の提示と実践場面で役立てる指針を示せると思われる。今後はこれらの分析結果から支援内容を考え,支援の場で生かすこと,親の子育てに役立てる方策の検討を今後すすめたい。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究では保育園児や幼稚園児と児童養護施設に在籍する児童を対象としてきて、2つの障害の特性の違いを示すことができたが、次には小学校現場ではどうなのかを明らかにしたい。さらに、小学校教員の持つ課題や、良好な対応例などを集積して具体的支援の方策を検討して提案したい。本研究の知見は、学校教員の基礎知識として「愛着障害(愛着に課題のある)子ども」の理解が必須であることを示し、それを基盤に子どもの対応・支援をしていくことに大きく貢献することができる。 実際の研究課題としては、小学校現場で①愛着障害と発達障害の呈する問題行動で、どんな特徴の違いが見られるのか、そして対応の仕方の違いがあるのかを具体的事例を通して把握する。②学校現場での愛着の問題のある児童の言動と発達障害の言動を鑑別する視点を提示する。③実際の支援・対応方法を考案し提示する。そして学校現場で実践、検証する(うまくいった対応とそうでない対応)。④実践後の評価を行ない、有用性を検証する(どう見分け、どう対応するか)。 これらの研究を進めるために、島根県内の小学校教員を対象として、①アンケート調査:8校、合計150名、②インタビュー調査:4校、合計8名にお願いする。 各小学校に応募者が訪問し、「愛着に課題のある子どもの言動の特徴と発達障害の特徴」についての研修をおこなう。その場で同意の得られた教員からのアンケートを回収。またインタビューに応じてもらえる教員に依頼して、個別にインタビュー調査をおこなう。実際に考案した方策を実践してもらう教員があれば、3名程度、追加してインタビューをに依頼して行う。これらの小学校での具体的な両障害の区別・判断の実態や対応・支援方法をまとめて提示したい。現場の教員の子どもたちの支援の一助になればと考えて研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までの研究では保育園・幼稚園が主な対象で低年齢であり、子どもの成長による問題表出の違いも出てくることも考えられ、次のステップとして、上の年代である学校現場(特に小学校)において実態の把握と、教員が持つ課題や対応方法の工夫まで調査を拡大し、検討してまとめたい。小学校に対象を広げることで、より学校現場に具体的な指導・支援方策の提示と実践場面で役立てる指針を示せると考えている。研究期間内に県内小学校でのアンケート調査やインタビュー調査が準備段階で、結果をまとめるには至らなかった。このため、期間を1年延長して実施したい。
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