研究課題/領域番号 |
21K02375
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研究機関 | 愛知大学短期大学部 |
研究代表者 |
杉本 貴代 愛知大学短期大学部, ライフデザイン総合学科, 教授 (70267863)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 幼児主導の話し合い / 非言語的脱文脈化 / 脱文脈化発話の可視化方略 / こども会議 / 心のビー玉 / 伝え合いの視覚化 |
研究実績の概要 |
本課題研究の3年目の23年度は、前年度に引き続き3つの多文化共生保育の環境で質的な研究を行った。5月に新型コロナ感染症対策も5類感染症へと移行したことから、保育現場でのデータ収集も支障なく取り組めるようになった。本年度の研究実績は以下の3点である。 1.多文化共生、乳幼児期という年齢や言語・文化的特性が多様な子どもたちの社会相互作用を調査する中で、脱文脈化発話環境はコミュニケーションの取り方だけでなく、保育者による保育環境構成も脱文脈化発話を生み出し、ピアラーニングに発展することを見出すことができた。国内の多文化共生保育の複数施設1年間観察した結果、保育者の考案による子どもの心を豊かに育む優れた取組みが、結果として日本語非母語児を含む子ども同士の脱文脈化発話の発達を促すという知見を得ることができた。具体的には、2023年2月から多文化共生保育における「こども会議」「心のビー玉」という4-5歳児の話し合い・伝え合いの活動を調査し、異なる言語文化的背景をもつ子どもが自由に語りあう中で脱文脈化発話が多く観察された。とくに、異年齢間相互作用の中で4歳児が脱文脈化発話を発達させるプロセスもとらえることができた。 2.前年度に引き続き、小規模保育所での3歳未満児と保育者の1-1の社会相互作用を中心に研究した。研究協力者の支援により、トドラー(1-2歳児)の大型ブロック遊びの発達過程を観察した結果、子ども同士の「非言語的コミュニケーション」において脱文脈化された表現でやりとりをしている可能性が示唆された。 3.日本保育学会、日本子ども学会議、英国ランカスター乳幼児発達学会にてこれまでの研究成果の一部を中間報告することができた。多言語環境で育つ子どもの発達に関しては欧米でも関心が高く、今後は、神経構成主義(Neuroconstructivism)の枠組みで捉えなおしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、自然観察やインタビューなど研究が進めやすくなった一方で、7月に過労で体調を崩して入院し12月に手術を受けたため、その都度、研究活動日程を変更した。幸い、研究協力者からの手厚い支援を得て、何とか研究を継続することができたが、当初の予定より遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、大きく3つの目標を設定している。第一に、脱文脈化発話が幼児の認知発達の関連を研究する手法の開発である。昨年度に引き続き、乳幼児期の社会相互作用と発達との関連について年間を通じて縦断的に研究する。今年度は複数の地域に研究協力を依頼して、子どもの心の発達に重要な自然な社会相互作用を妨げない(非侵襲的な)研究手法の開発に努める。子どもと養育者・保育専門職(caregivers)の相互作用のダイナミクスを解明する。短期強縦断研究を行う。第二に、これまでの成果を中間報告として総括しつつ、学会のみならず、社会へのアウトリーチ活動を行う。合わせて、優れた保育実践(かかわり方の質)に対する社会全体の理解促進を図る。第三に、欧米の白人親子のデータから報告されてきた脱文脈化発話の効用について、非欧米圏の事例を文化的観点から比較することである。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、病気の治療のために手術を受けることとなり、予定していた対面での学会発表や研究活動等を一時期(12-3月)控えるなどしたため、未使用額が生じた。2024年度にそれらの活動を実施・完了するために使用する。研究成果を論文化する段階で必要な資料収集等も実施する。
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