研究課題/領域番号 |
21K02430
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
内田 裕子 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (40305024)
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研究分担者 |
大岩 幸太郎 大分大学, 教育学部, 名誉教授 (90223726)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 個性 / 性格 / 感情 / キャラクター / 関係 / 想像力 / 造形的な見方・考え方 |
研究実績の概要 |
2021年度は,まず「造形的な見方・考え方」に関わる{感性,個性,知性と感性を融合させる方法}の内容を明らかにするため「個性」(性格)と「感情」についての文献研究を行い,その結果に基づき,現代の大学生が理解している「性格」及び「感情」の内容及び種類について,メディアに登場するキャラクターを手掛かりに調査を行い,結果を分析した。分析により,学生は{(1)「性格」や「感情」については概ね経験していること,(2)「性格」も「感情」も全般的に知りたいと思っていること,(3)経験しているにも拘らず詳しく知りたいと思っているのは性格の「自己中心的」と感情の「愛情」であること},加えて,学生が好む「性格」は,ネガティブな面を持つがポジティブな性格を前面に出し,自己中心的では無い性格であることが分かった。更に「自己中心的」や「愛情」は,多くの学生が自ら経験していると答えた一方で詳しく知りたいとも答えたことから「性格」や「感情」を示す各言葉の定義(概念)については,内包は元より外延についても充分に理解しているとは考え難く,そのため「性格」や「感情」の理解に関わり,各言葉の定義の理解の正否や程度に関する検証が必要であることが明らかになった他,回答者の性差等の個性により,キャラクターの「性格」の捉え方が異なったことから,回答者の個性と他者の性格や感情の理解の関係についての検討が必要であることが分かった。 また「EFT」(Emotion-Focused Therapy)に関する研究では,北欧でのEFTの実践を中心に調査を行い,EFTに類する実践内容を理解すると共に内容を整理し,その結果から,美術教育での実践及び研究が無いことを明らかにすると共にEFTに類する研究及び実践の発展の経緯を明らかにし,その主たる方法が対話にあり,その対話の特徴から美術教育に有効と考えられる対話の方法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画調書に記載した研究内容は予定通り遂行しているが,研究を進める過程で,新たに下記の3種類の課題が浮上したことから,それらの内容を含めて研究を行うことにしたため,上記の進捗状況とした。 (1)知性(理性)と感性の関係については,これ迄,美術教育学は元より哲学においても理論上の見解しか無く,従来,止む無く,それらの理論的見解に基づき研究を行って来たが,近年の脳科学の進展により,感情が生じる仕組み等,理性と感性の関係が生理学的に明らかになって来たことから,美術教育学でも,それらの研究成果に基づき研究が進められる可能性が拓かれつつある。そこから,本研究が育成を目指す「知性だけでは捉えられない対象・事象を捉える」とされる「造形的な見方・考え方」に関しても,脳科学の研究成果を反映することが可能であると考え,その点を含めた研究を行う必要があると考えた。 (2)これ迄,個性を理解する点を主な目的として調査・研究を行って来たが,生徒や学生を対象にした調査の結果から,現代のSNS(Social networking service)の浸透の影響もあり,児童生徒が,キャラクターの個性についてのみならず,キャラクター同士の関係についても関心を抱いていることが分かった。加えて,文献調査から,美が「関係」において生じるとの見解があることが明らかになったこともあり「学習プログラム」の考案に際しては,キャラクターの個性に加えて,キャラクター同士の関係の調査及び分析の結果も含めて行う必要があると考えた。 (3)EFTの調査により,EFTには様々な療法が含まれていることが明らかになったことから,EFTに関係するそれらの多様な療法についても調査し理解した上で,今後の研究を進める必要があると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,上記の課題を行った上で「学習プログラム」の「理解編」に関する基本設計を行い,更に「理解編」に関する基本設計に基づき,教員及び教員養成課程の学生が「造形的な見方・考え方」について指導が出来る様になるための「指導編」に関する「学習プログラム」の基本設計を行い,それらの成果に基づき「学習プログラム」(試作版)を開発し,その「学習プログラム」をWeb上で公開する。 「理解編」に関する基本設計は「知性と感性を融合させる方法」の理解に関する学習内容として「遊戯衝動」に関する研究に加えて「見立て」等の「遊び」に関わるイメージの研究及びそれらの研究で開発した教材を手掛かりに行う。加えて,近来の脳科学の研究成果も含め,身体の機能に関わる観点からも「造形的な見方・考え方」を理解出来る内容にすることを試みる。また「指導編」に関する「学習プログラム」の基本設計に際しては,学習指導要領に掲げられる表現と鑑賞において共通に指導する内容である{形,色,イメージ}の観点から取り組む演習内容にすること,並びに,近年着目される「デザイン思考」や「アート思考」に関わる「秩序」と「混沌」の両者の観点を理解する演習内容にすること等を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画調書では「国内旅費」を,国内の美術館等における「知性と感性を融合させる方法」として有効なワークショップ等の実践に関する調査・資料収集の他,研究打合せ,研究成果の発表のために使用し,更に「海外旅費」を,海外の美術館でのEFTに関する調査及び資料収集のために使用することにしていたが,未だCOVID-19の感染状況の改善が見られなかったため,それらの実施が延期されたことにより,次年度使用額が生じた。 (使用計画) 今後,COVID-19の感染状況が改善すれば,上記の研究を行い,当初の予定通り,旅費として使用する。また,それが難しい場合は,新たに生じた上記の3つの課題に関わる研究資料の収集及び調査等に使用する。
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