本研究課題では,誰もが不安なく自らの意思でAIの恩恵を享受・活用するAIリテラシーを習得するための中学校技術科のカリキュラム開発を通して,Society 5.0の実現を牽引できる人材の育成に関する知見を得ることを目的とした。主な研究実績は次の3つである。 まず,中学生を対象とした画像認識AIの技術を活用した技術的問題解決学習の題材を2種類考案したことである。中学校技術科では情報の技術の学習において,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツに関するプログラミングと,計測・制御に関するプログラミングという問題解決の学習過程が設定されている。これらを扱う題材をそれぞれ考案し,2学年と3学年を対象として想定した指導計画を立案した。 次に,考案した指導計画を研究協力校で2年間に渡って繰り返し実践し,研究協力校の教員と緊密に連携しながら,その有効性を吟味するとともに課題の修正と改善を行った。この実践から,AIに関する学習は中学校学習指導要領に明確に規定されていないが,中学生が学習することは十分可能であり,昨今のAI技術の生活や社会への浸透を鑑みると,小学生段階からの学習の必要性が示唆された。そして,GIGAスクール構想で一人一台端末が整備され,多様なブラウザベースのアプリが供給されていることから小学校での実践も十分可能であると考えられた。 さらに,本実践によって中学生に育まれる資質・能力を多角的に把握するために,実践の一部をAI技術に関する専門的知識とスキルを工学部で習得した大学生・大学院生に実施し,中学生の成果物と大学生・大学院生の成果物の比較を行った。その結果,本実践においては,中学生は大学生と類似した傾向の技術ガバナンスに参画する資質・能力が習得されていることが示唆された。一方で,開発者としての発想の多様性に差異があることが示唆された。
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