研究課題/領域番号 |
21K02439
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
鈴木 正行 香川大学, 教育学部, 教授 (90758856)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 多文化・多民族化社会 / 社会進化論 / 優勝劣敗 / 定時制課程 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマ「多文化・多民族化社会における倫理観・法的課題解決力の育成に関するカリキュラム開発」を遂行する上で,当該年度は以下の二つのアプローチを行った。 一つ目は,近代日本社会における社会進化論的思考の受容に関する歴史学的アプローチである。競争社会に生きる私たちの意識の中には,社会ダーウィニズム的思考が存在している。グローバル化により多文化・多民族化が進行する日本において,学習者の共生観・統合観の育成は,社会の維持・発展にとって必要不可欠である。近代社会成立期の日本では,社会ダーウィニズムは「優勝劣敗」の語で表象されていた。「優勝劣敗」は,排除の論理に通じており,共生観とは相容れない概念である。社会ダーウィニズム的思考の克服に向けたカリキュラムの開発は,社会科教育にとって重要な課題である。そこで,カリキュラム開発の基礎的研究として,静岡県磐田市の地域調査をもとに,明治期の報徳運動と耕地整理事業を推進した人物(老農鈴木浦八)の思想と行動の分析を通して,「優良劣敗」の観念が民衆に受容されていった過程を明らかにした。 二つ目は,高等学校定時制課程に関する調査である。学校教育制度の中で,定時制課程は社会や産業構造の変化が最も反映しやすい場所である。定時制課程は,高度経済成長期に,中学校卒業者による若年労働力の供給源としての役割を担った。とくに繊維産業の盛んな地域においては,女子労働力の確保のために昼間定時制課程が創設された。しかし,繊維産業の衰退とともに,閉鎖されたり,総合学科への移行や合併が行われたりした。さらに,1990年の入管法改正以降,外国人労働者の増加に伴い,その子女の受け入れ先にもなった。本研究では,静岡県立磐田南高等学校の協力を得て,同校の定時制課程の変遷を調査し,その成果を「定時制課程のあゆみ」(『見付中磐田南高百年史』)に記した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウイルス感染拡大の影響を受けて2年間延長した前研究(17K04869)と並行して研究を行ったため,当初の計画から約1年間の遅れが生じた。これまでに,前研究の課題と重なる若者の意識について,総理府による「H30我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」や香川大学の学生を対象に行ったアンケート調査のデータをもとに,日本や諸外国の若者の社会観,職業観,倫理観,外国観などについて整理した。 本研究を遂行するためのサブアプローチである,①定時制課程の実態を調査し「希望」の再生を保障するカリキュラムを開発する,②日本人の意識にある倫理観,共生観,社会進化論的思考の構築性を歴史的文脈から明らかにし,共生観と対立する優勝劣敗の観念を克服する,という二つの方法については,基礎的な研究はできたものの具体的なカリキュラム開発に至ることができなかった。 現在,法的課題解決力の育成に向けて,法律による解決の必要な社会問題に関する調査と文献の収集を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
基礎調査を継続するとともに,法教育,キャリア教育・倫理教育の視点による総合的カリキュラム開発及び副読本の作成を行う。カリキュラム開発では,法規範意識・法的知識・法的解決能力,生活・職業倫理,進路・職業選択に関する内容を扱う。副読本の内容は,主に法的な対応を必要とする社会事象を対象として,具体的な問題解決の方法を取り上げる。教材開発や副読本の作成にあたっては,香川県弁護士会所属弁護士の協力を仰いで,合理性・実証性の高いものとしたい。開発したカリキュラムや副読本については,授業実践による検証を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大によって,学会参加や調査のための出張が滞っていたため,当初の計画に沿った研究活動を行うことができなかった。しかし,昨年度の後半になって次第に移動の緩和がなされるようになり,一昨年度に比べて出張が可能になってきた。 本年度は,学会への参加,調査活動,講師の依頼,さらに副読本の作成などに研究費を使用する予定である。
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