本年度もまず、〈実践的な場面で古典を活用する〉水準について、コンピテンシー志向のカリキュラム改革を行ったドイツの状況をもとに検討した。具体的には、Anita Schilcher und Markus Pissarek編『Auf dem Weg zur literarischen Kompetenz :Ein Moodell literarischen Lernens auf semiotischer Grundlage 文学的能力の獲得を目指して―記号論に基づく文学学習モデル―』(2013)をもとに、初等~中等教育を通じて育成すべき文学的コンピテンシーの一つとして「虚構の世界モデルの意識化」を取り上げ、その獲得に向けた長期的な文学学習カリキュラムを作成し、その中に古典学習を位置付けた案を提示した(『日本文学』2022.11)。また、「一般大学入学試験のためのドイツ語科教育スタンダード」における学習課題の分析から、そこでは「文学テクストの持つ多義性と関わりあう」能力が重視されていることを確認し、こうしたコンピテンシーが日本の古典教育でも有効であることを論じた(全国大学国語教育学会・2022春大会) また、古典読解に関わるモデルの作成については、テクストおよび自己との対話の局面をいかにつくり出すかという点に関して、竹村信治氏の古典読解モデルを参考にしつつ授業化を行い(徳島県の公立高等学校にて2023.1-3に実践)、現在、生徒の作文をもとにモデル化を行っている最中である。その成果については2023年5月の全国大学国語教育学会で発表予定である。
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