研究課題/領域番号 |
21K02460
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
茅野 政徳 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00830142)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 伝記教材 / 国語教科書 / 生き方・考え方モデル / 見方・評価語句 / 道徳資料 |
研究実績の概要 |
国語科において、伝記教材は公共性を維持し秩序への適応を促すために,規範的な価値観や道徳性(本研究では、【生き方・考え方モデル】と称する)を児童に伝える一役を担ってきた。しかし、国語教科書教材史の分野において伝記教材は研究が停滞していた文種でもある。そこで、本研究では年代及び校種を限定せず、伝記教材を網羅的に研究対象として【生き方・考え方モデル】を明らかにし、社会変化の中での伝記教材の普遍性と流動性を検討することにした。 2021年度の研究成果を2点にまとめる。第一に、収集した伝記教材と道徳資料をもとに、「国語教科書の中のオリンピック-戦後小学校国語検定教科書の伝記教材を中心に-」と題した論考をまとめたことである。本論考では、現在小学校で使用されている「特別の教科 道徳」教科書に掲載されたスポーツに関連した人物資料(301編中59編)と国語教科書に採録されたスポーツ選手の伝記教材(31編、そのうち19編がオリンピアン)を調査・分析することにより、被伝者の採録意図を明らかにし、国語教科書が東京五輪1964開催に向けた肯定的な国民感情の創出に果たした役割を検証することを目的とした。その結果、スポーツ選手の伝記教材の掲載は昭和20~30年代半ばに偏り、スポーツマン・シップやオリンピック精神といったキーワードと関連づけられ、努力、友情、規則の尊重、公正・公平、国際親善・友好等の教育的価値を児童に届ける重要な役目を負っていたことを解明した。 第二に、小・中学校の戦後国語教科書の調査がほぼ終了し、一覧表を作成したことである。この一覧表は2022・2023年度の研究の基礎資料となる。 伝記教材分析の手法を援用し、現在使用されている小学校国語教科書の物語文教材を対象とした研究論文「小学校国語教科書の物語文における人物・時・場の「設定」と効果-読みを深めるために-」の発表も成果の一部である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の研究方針として、「内容分析(エピソードの選び方や展開のさせ方)による、明治37年から現在までに刊行された小・中・高の国語教科書の伝記教材のパターン化の実証」を掲げていた。しかし、世界的な感染症流行の影響により調査資料を有する図書館が長期的に閉館したり開館時間や人数を制限したりする措置が講じられ、中学校の一部と高等学校の国語教科書の調査を終えることができず、パターン化の実証には至っていない。内容分析に関しては,学習指導要領国語「教材選択の観点」(10観点),本研究以前に分析コードとして使用した15・26観点,2021年度の研究で使用した道徳の内容項目(4項目22観点)などを用い、独自の分析コードを設定できているので、調査及び分析を早急に完了させ、パターン化を実証したいと考えている。 しかしながら、感染症流行の長期化が予想されたため、2021年度及び2022年度の調査・分析を複合的に進展させるように方針を変更したことにより、「研究実績」の項で述べたように被伝者をスポーツ選手に限定したかたちではあるが、「推奨される人生の歩み方,思いや考えのもち方,道徳的規範・価値観」である【生き方・考え方モデル】の一端を明確化することができた。また、「研究実績」でも少しふれたが、伝記教材分析の手法を援用し、共同研究として、「小学校国語教科書の物語文における人物・時・場の「設定」と効果-読みを深めるために-」と題した論考を発表することができた。今後も伝記教材を主に、教科書に掲載されている多様な教材(例えば、詩教材、説明的文章教材など)の分析研究は継続して行っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の予定通り、2022年度の研究方針を「同一被伝者の国語,道徳,一般図書の伝記に描かれる内容の比較・検討を通した推奨する【生き方・考え方モデル】の明確化」とする予定である。 道徳は、副読本や教科書の使用が前提となったことにより、1つの内容項目を内包した教材を1単位授業で扱うことが多くなり,必然的に教材は短編が中心となり,エピソードをかなり精選せざるを得ない特徴をもつ(通常、伝記の中でも「逸話」に属する)。それに対し、一般図書伝記はある程度の紙幅の制限はあるものの多くのエピソードを筆者の裁量で盛り込むことができ、被伝者の生涯が描かれることが多い(通常、伝記の中でも「全伝」「評伝」に属する)。国語教科書の伝記教材と道徳の伝記資料,一般図書伝記の内容の比較・検討を行い,共通点・相違点を熟考することにより,国語教科書が推奨する【生き方・考え方モデル】の特質の明確化を図ることができると考えている。 現在使用されている小学校道徳教科書については,先にもふれたが既に8社48冊の調査に着手しており,伝記資料数301編,被伝者総数233名を確定している。1960年代以降の道徳副読本の被伝者は,先行研究により概要を確認できる。一般図書伝記についても書籍及び出版社WEBサイトで情報を入手でき、既に取集を開始している。同時並行で行う、一覧表作成に向けた調査と往還させながら,国語⇔道徳,国語⇔一般図書,道徳⇔国語⇔一般図書に共通する被伝者を特定し,描かれる内容を比較・検討する計画である。現在の調査段階ではあるが、被伝者の絞り込みを始めており、渋沢栄一、豊田喜一郎、津田梅子などを候補として想定している。 2022年度の研究成果については、山梨大学教育学部紀要に投稿するとともに、2023年度春の全国大学国語教育学会にて発表する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症流行下、情報及び資料収集、口頭発表を予定していた学会が中止、またはオンライン開催となり、それに関わる旅費や参加費などに誤差が生じた。また、研究課題に対する調査が完了しておらず、その資料印刷費も次年度の必要経費となる。
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