研究課題/領域番号 |
21K02460
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
茅野 政徳 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00830142)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 伝記教材 / 人物教材 / 生き方・考え方モデル / 教材分析 / 国語教科書 / 道徳教科書 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実績として、次の3点を挙げる。 1点めとして、2021年度より継続して取り組んできた小・中学校の戦後国語教科書の伝記教材の調査が終了し、一覧表が完成した。これにより年代ごとの被伝者の傾向や、重視される内容等を総合的に明らかにすることが可能となる。この一覧表は、本年度または次年度に山梨大学教育学部研究紀要において発表する予定である。 2点めとして、2021年度の研究成果である、「国語教科書の中のオリンピック-戦後小学校国語検定教科書の伝記教材を中心に-」で用いた研究手法を援用し、現在「伝記教材における被伝者やなせたかしの可能性-国語と「特別の教科 道徳」の比較をもとに-」と題した論文をまとめており、日本国語教育学会誌に掲載予定である。この内容は、研究実施計画にある、「国語⇔道徳、国語⇔一般図書、道徳⇔国語⇔一般図書に共通する被伝者を特定し、描かれる内容を比較・検討することにより、国語教科書が推奨する【生き方・考え方モデル】の特質の明確化を図る。」ことに合致する。本論文では、現在使用されている「特別の教科 道徳」の小・中学校の教科書から実在の人物に関する教材をピックアップし、被伝者の傾向を探った。その結果、やなせたかしの被伝者としての価値の高さが浮き彫りとなった。この点をふまえ、小学校国語教科書におけるやなせたかしの伝記教材2編を分析した。さらに、一般書として刊行されているやなせたかしの伝記や自伝などを網羅的に扱い、どのような内容が教材に配されているのか。逆に取り上げられていないエピソードは何か、を解明することにより、伝記教材が推奨する道徳性を顕在化することを意図した。 3点めとして、伝記教材を含め、文学的文章及び説明的文章の教材分析・研究の手法を全部で63のスイッチに分類し、具体的な教材を用いて解説した『小学校国語 教材研究ハンドブック』を刊行したことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度から継続して取り組んでいる「内容分析(エピソードの選び方や展開のさせ方)による、明治37年から現在までに刊行された小・中・高の国語教科書の伝記教材のパターン化の実証」に関しては、コロナ禍による図書館の閉館や収容人数の制限による影響を受け、予定通りに進まない面があったが、小学校国語教科書については分析が終了し、中学校国語教科書については教材の調査・収集が終了した。2023年度に詳細な分析を行うことが必要である。 2022年度は、研究実績の概要で示したように、「研究目的」の「2.同一被伝者のABCの比較による、Aが推奨する【生き方・考え方モデル】の明確化」に取り組んだ。ABCとは、A:「明治37年から現在までに刊行された小・中・高の国語教科書の伝記教材」、B:「道徳の教科書や副読本に収録された伝記教材」、C:「児童・生徒向けの一般図書伝記」である。やなせたかしは、令和2年版小学校国語教科書において、刊行4社中2社が採録した被伝者である。伝記教材の掲載数が大変少なくなっている現状において、複数社が同一人物の伝記教材を掲載することは極めて稀である。 同一被伝者の研究がまだ1名に限られている状態であるが、2023年度は、予定通り被伝者を評する【見方・評価語句】からみた、【生き方・考え方モデル】の解明を主に取り組む。書き手は、内容や展開を決定する絶大なる権限をもつ。その書き手が教材の執筆意図に応じて、被伝者を価値づけ、読者のイメージ形成に影響を与える【見方・評価語句】を集積し大別することで、【生き方・考え方モデル】のさらなる解明につなげたい。 最終的には、「特別の教科 道徳」に掲載されている人物教材と関連づけながら、国語教科書の伝記教材を通して暗黙裡に読者である児童・生徒に伝えられてきた道徳的規範や価値観を浮き彫りにし、その要因(社会的背景や要請との関連性)を指摘する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも述べたが、2023年度は、被伝者を評する【見方・評価語句】からみた、Aの【生き方・考え方モデル】の解明を主に取り組む。書き手は、内容や展開を決定する絶大なる権限をもっており、教材の執筆意図に応じて、被伝者を価値づけ、読者のイメージ形成に影響を与える【見方・評価語句】を用いる。伝記教材が被伝者のエピソード(事実)をもとにすることは当然であるが、単に時系列に事実を羅列するだけではない。ある事実を強調したり価値づけたりしながら読者に特徴的な人物像を暗黙裡に提供している。それらの言葉や文を集積し大別することで、【生き方・考え方モデル】のさらなる解明につなげたいと考えている。 総括として、「特別の教科 道徳」に掲載されている人物教材と関連づけながら、国語教科書の伝記教材を通して暗黙裡に読者である児童・生徒に伝えられてきた道徳的規範や価値観を浮き彫りにし、その要因(社会的背景や要請との関連性)を指摘する予定である。道徳教材は、信頼や勤労、伝統尊重、自然愛護など特定の価値観(内容項目)と対応している。それは教科書にも明確に示されており、実在する人物の教材化がもつ特徴を明らかにすることができる。 なお、研究成果に関しては、2023年度山梨大学教育学部紀要や、2024年度全国大学国語教育学会にて発表する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症流行下、情報及び資料収集、口頭発表を予定していた学会が中止、またはオンライン開催となり、それに関わる旅費や参加費などに誤差が生じた。 また、研究課題に対する調査及び授業実践等が完了しておらず、その資料印刷費等も次年度の必要経費となる。
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