研究課題/領域番号 |
21K02463
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
廣木 義久 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (80273746)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 地層モデル / 地層断面図 / 沿岸域 / 教科書 / 中学校 / 理科 / 第2分野 |
研究実績の概要 |
中学校理科第2分野の「地層の重なりと過去の様子について」の学習においては,地層の重なり方や広がり方の規則性を観察・実験などによって見出させることが求められている。地層の重なり方や広がり方の規則性を実験によって見出させようとする場合,実験で形成させる地層をどのようなものにするのかが問題となる。そして,実験によって形成させる地層をどのようなものにすべきかは依拠する地層モデルによって異なってくる。依拠する地層モデルによって地層の重なり方は異なり,実験方法も異なってくる。地層断面図は地層の重なり方の規則性に関する考え方を示した地層モデルそのものであるが,教科書に掲載の地層断面図は教科書によって異なっている。教科書に掲載の沿岸域の地層断面図が教科書によって異なっているということは,それらの地層断面図が依拠している地層モデルが異なっていることを示しており,それらの地層断面図とそれらが依拠している地層モデルの妥当性について検討する必要がある。 本研究では,中学校理科教科書に掲載されている沿岸域の地層断面図を精査し,それらの地層断面図の妥当性を学術論文等で提案されている地層モデルと比較することにより検討した。その結果,以下のことが明らかとなった。(1)中学校理科教科書に掲載の沿岸域の地層断面図を地層の重なり様式によって分類したところタイプA~Gの7つに分類された。(2)沿岸域における地層断面図の7つタイプを学術論文等で提案されている地層モデルと比較したところ,タイプE,F,Gは学術的に妥当であるが,タイプA,B,C,Dは学術的に問題があると考察された。(3)教科書に掲載の沿岸域の地層断面図は,学術的に問題があるものが多く掲載されており,今後,学術的に妥当な地層断面図が掲載されるように改定されるべきであると結論付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目的は,中学校理科の教科書に掲載されている沿岸域の地層断面図を精査し,掲載されている沿岸域の地層断面図がどのような地層モデルに基づいて作成されているのかを明らかにするとともに,理論的に正しい地層断面図を明示することであった。昭和36年検定から令和2年検定の教科書について,掲載されている沿岸域の地層断面図を調べ,それらを地層の重なり様式によって分類したところタイプA~Gの7つに分類することができた。そして,タイプE,F,Gは学術的に妥当であるが,タイプA,B,C,Dは学術的に問題があると考察された。 学術的に妥当であると考察された3つのタイプのうち,タイプGは海水準が上昇する時の地層の重なり様式を示したもので,タイプFはギルバート型デルタの地層モデルに依拠しており,タイプEは海水準が一定な時に形成される沿岸域の地層モデルに依拠したものである。これらの学術的に妥当と判断された3つのタイプの地層断面図のうち,タイプEが沿岸域における地層形成を最も適切に表現していると考えられることから,タイプEの地層断面図が中学校理科の教科書で取り上げるのに適していると判断された。 以上のように,本年度は,ほぼ当初の実施計画通り研究を遂行することができたことから,現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,ほぼ当初の実施計画通り研究を実施することができた。特に,海水準が一定な時に形成される沿岸域の地層断面図を表しているタイプEの地層断面図が,堆積学の理論に照らし合わせて,教科書で取り上げるのに適切であることが明らかとなった。当初の研究計画では,次年度,地層形成理論的に正しく,かつ,中学校理科で実施可能な地層形成実験を開発することとなっている。本年度,地層形成理論的に正しい地層断面図を明らかにすることができたため,当初の実施計画通り,次年度は,その地層形成理論的に正しい地層の重なり様式を再現可能な地層形成実験を開発する。 その地層形成実験の開発においては以下のような見通しを持っている。沿岸域における砕屑物は,一般的には,波浪が卓越した通常流下で運搬・堆積される。そこで,造波水槽を用いて,波浪を起こしながら砕屑物を投入することによって,沿岸域における地層形成を再現する実験が可能であろうと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は183,560円である。本年度の研究実施にあたり,物品費とその他での支出合計は当初の使用計画にほぼ同額の使用実績となったが,新型コロナウィルス感染拡大の影響で,当初計画していた学会参加旅費ならびに試料採取旅費(180,000円を計上)が未使用となったため,上記の残額が生じた。生じた次年度使用額については,次年度の地層形成実験開発に必要な材料費等に使用する予定である。
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