研究課題/領域番号 |
21K02507
|
研究機関 | 姫路大学 |
研究代表者 |
和田 幸司 姫路大学, 教育学部, 教授 (40572607)
|
研究分担者 |
山内 敏男 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (70783942)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 歴史学習 / 近世身分 / 人権学習 / 小学校社会科教科書 / 社会集団 |
研究実績の概要 |
初年度は近世身分制研究の整理と蓄積を行った。第一に近世国家権力による身分編成の歴史研究、第二に「浄穢観念」「貴賤観念」「種姓観念」の諸観念の動向を明らかにした歴史研究、そして、第三に「属性論」をふまえた社会における身分編成の歴史研究である。これらの歴史学研究の成果の蓄積は、本研究での資料収集と考察のための理論的基盤となり得る。 さらに、令和2年度版小学校社会科教科書及び教師用指導書(教育出版・東京書籍・日本文教出版)における近世身分に関する記述、授業展開の分析・検討を行い、歴史学習の諸課題を析出した。分析・検討の結果、(1)「支配-被支配」の関係理解に限定されやすいという点、(2)近世身分の成立と差別の強化の一元的理解の改善が必要である点を明らかにした。克服すべき課題として、歴史学研究の視角からは、近世の役負担が「支配-被支配」の関係に限定されることなく、広く近世国家の身分成立要件として捉えられるべき点、身分成立と差別強化を一元的に捉えるのではなく、18世紀の転換期における社会的背景をもとに差別を把握する点の重要性を指摘した。さらに、社会科教育学研究の視角からは、現状カリキュラムにおいては、17世紀後半から18世紀にかけての社会的な身分制の再編と強化は取り上げることが困難である点、支配の仕組みを学ぶことに力点が置かれていることで、時期や年代における異同、推移は等閑視され、諸身分が切り離された状態で支配されていたことが学ばれる懸念、目標と問いが不一致の関係であり、教師が役負担や社会集団について取り上げることが容易でない点を析出した。 上記の重要点と課題をふまえて、今後の近世身分を取り上げた授業開発では、「社会集団」「職分」「役」といった身分成立の要件と、差別が強化される推移と構造、社会的背景をいかに授業に組み入れていくかという指標が把握された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、小学校教育における部落差別解消に向けた近世身分のメカニズム理解と差別の不当性の看破に基づく歴史認識の育成、および、差別と向き合い看破する判断力・心情・実践意欲と態度の育成を図る系統的な近世身分の学習プログラムを開発することである。 研究目的達成のためには近世国家権力による身分編成と「属性論」をふまえた社会における身分編成にかかわる授業資料が重要になる。前者は多くの研究蓄積が存在するが、後者についてはどのような視角からの教材化を図るかが問われることになる。 令和2年度版小学校社会科教科書及び教師用指導書(教育出版・東京書籍・日本文教出版)における授業展開の分析・検討を行った結果、近世の役負担が「支配-被支配」の関係に限定されることなく、広く近世国家の身分成立要件として捉えられるべき点、身分成立と差別強化を一元的に捉えるのではなく、18世紀の転換期における社会的背景をもとに差別を把握する点の重要性を指摘することができた。この課題をふまえるならば、職分と役負担、18世紀における政治・社会の転換期を教材化することが重要となるであろう。この両者を止揚する授業開発によって、近世身分を政治的身分編成と社会的身分編成の双方から理解することが可能となる。 そこで、18世紀における町人文化の発展、特に歌舞伎や人形浄瑠璃といった芸能関係のなかでも、地域社会で独自に発展した「地歌舞伎」の教材化について今後は基礎研究を行っていきたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に把握された課題から、18世紀における「地歌舞伎」を支えた役者集団の事例研究とその教材化に向けた検討、さらには、それらを職分や役との関係性から捉えた近世身分のメカニズムの学習プログラムの開発が必要である。 17世紀に誕生した歌舞伎は元禄歌舞伎として完成し、三都のなかで大芝居を勤める役者が輩出された。一方、村では旅役者によって地方歌舞伎が刺激され、「地歌舞伎」として根付いていく。こうして、各地に役者村や役者集団が成立していくが、多くは中世の雑芸能民の系譜をひくとされる。この役者集団の身分体系内の位置づけは一種の被差別民とされたものの、各地によって多様となっている。 そこで、文政8年(1825)に出版された見立番付「諸国芝居繁栄数望」にて行司格に位置付けられた播磨高室座について検討をしていく。かつて柳田國男が指摘した「志久(夙)」とされる身分を検証しながら、「天保の改革」期における制限のなかで、いかに役者たちが職分・役を果たしながら活動を行ってきたかを検討し、近世身分のメカニズム理解と差別の不当性の看破に基づく歴史認識の育成を図る学習プログラムの開発を行っていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、調査や学会関連の出張が困難となった。 この影響は今後も改善されるかどうか未だ不透明であり、状況を見て執行計画を柔軟に改善していきたい。研究活動の中で、必要となる物品の購入も検討していく。
|