本研究では小学校における部落差別解消に向けた近世身分のメカニズム理解と差別の不当性の看破に基づく歴史認識の育成、および、差別と向き合い看破する判断力・心情・実践意欲と態度の育成を図る近世身分の学習プログラムを開発を行った。 初年度は令和2年度版小学校社会科教科書及び教師用指導書(教育出版・東京書籍・日本文教出版)における近世身分に関する記述、授業展開の分析検討を行い、歴史学習の諸課題を析出した。分析・検討の結果、①「支配-被支配」の関係理解に限定されやすいという点、②近世身分の成立と差別の強化の一元的理解の改善が必要である点を明らかにした。 次年度は上記初年度の克服すべき課題解決のため、17世紀後半から18・19世紀にかけて、「役者村」と呼ばれる芸能者集団の成立と発展、その歴史的意義についての授業開発を行った。「役者村」の授業開発は18世紀以降の差別や偏見の具体を捉え得るという点でその効果が期待できるばかりか、過度な一般化を回避し「継続と変化」の把握によって、差別や偏見を克服するための社会との向き合い方を議論し、開かれた判断を手に入れることができる学習プログラム(4時間)を構築できた。 最終年度では開発した学習プログラムの授業研究を行い、その成果と新たな課題を整理した。成果としては「支配-被支配」の政治的身分編成に限定されることなく、社会的身分を児童が認識できた点、18世紀を中心とした単元設定を行うことで身分の成立と差別の強化の一元的理解を克服できた点が挙げられる。また、職分という属性にかかわる「みなす差別」の不当性に気づき、その歴史的意義を考察することができた。歴史的意義から教室と現代社会を接続する学習ができた点が成果である。課題としては差別や偏見に向き合う自己と社会に関わる価値観を脱構築しているかどうかを見取るルーブリック、および評価問題の作成などが挙げられる。
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