研究課題/領域番号 |
21K02512
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
荻原 文弘 茨城大学, 教育学部, 助教 (30846390)
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研究分担者 |
両角 達男 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (50324322)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 数学教師 / 教授学的知識の成長 / 力量形成過程 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中学校・高等学校の数学授業において、「新たな意味形成と数学的な洞察の循環」を促す、スパイラルを重視した数学的活動を実現する、数学教師の教材観や授業観を含めた教授学的知識の成長過程、授業における数学教師の意思決定と教授活動の力量形成の過程を解明することである。 この目的の達成に向けて、令和3年度は数学教師の教授学的知識の成長過程、力量形成過程やその評価方法等に関わる国内の先行研究を整理しながら、研究全体の理論的考察を進めた。また、数学教師と大学教員および教職大学院生(現職)と大学教員の協働による単元開発、授業設計、授業の省察と改善に向けた「理論と実践の往還」に関する検討を具体的に進めた。 熟練数学教員と初任数学教師の協働による高等学校2学年を対象とした単元「ユークリッドの互除法」の授業づくりや授業実践、およびその省察と改善を繰り返す活動過程の分析では、初任数学教員の教材観や指導観の変容、およびそれらを具現するための具体的方策を獲得していく姿が見いだされた。また、「実数概念の段階的形成」に関して、写像の合成の見方・考え方を用いて乗法の意味を再構成することを意図した中学校3年生を対象とした教授実験における教師の行為や発言を分析しながら、数学教師の教授学的知識の特定を進めた。授業における形成的評価による把握と判断、行為の特徴、授業観における学習集団観の特徴を見いだした。更に、小中連携を重視した中学校1学年の単元「比例」の教授実験を行い、単元「比例」の授業における数学的探究とその様相についての分析、および、授業観に基づく教師の行為や発言に関する分析も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の研究目的である、数学教師の教授学的知識の成長過程、力量形成過程やその評価方法等に関わる国内の先行研究(数学教育および教育学)を整理しながら、研究全体の理論的枠組み(評価の枠組みの構築とそれに基づく分析方法の開発)の形成に向けた考察を進めている。また、数学教師と大学教員の協働による単元開発、授業設計、授業の省察と改善に向けた「理論と実践の往還」に関する具体的な検討に関しても、コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響で多少の制約がありつつも、横浜国立大学教育学部附属横浜中学校の数学教員と大学教員が協働研究の体制をとり、小中連携を重視した中学校1学年の単元「比例」の授業を設計し、教授実験を行う過程における数学教師の行為や発言に関する分析を進めている。さらに、次年度に向け、群馬県立桐生高等学校の数学教員と大学教員、教職大学院生(現職)と大学教員の協働研究の体制を構築し、教授実験に向けた授業づくりに関する議論をし、研究に関わる質的データを収集し始めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、前年度の研究成果を踏まえ、研究全体の理論的枠組み(評価の枠組みとそれに基づく分析方法)の具体に関わる考察を更に進める。また、数学教師と大学教員、教職大学院生(現職)と大学教員の協働による単元開発、授業設計、授業の省察と改善に向けた「理論と実践の往還」の体制の構築に関する考察もさらに推進する。 そして、例えば、スパイラルを重視した数学的活動による中学校3学年の単元、高等学校2学年の単元「指数関数・対数関数」に関する教授単元の開発・授業実践、および授業の省察と改善を行う一連の活動において、授業づくりにおける教師の発言、教授活動における数学教師の行為数学教師の教授活動の変容と授業観の関わりについて質的データを収集・分析し、教師の教授学的知識の特定を進める。 なお、これらの研究で得られた知見は、数学教育関係の学会における論文発表や、学会誌への投稿論文を通して発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症拡大防止のため、最新の研究動向を収集したり研究成果を発表するための学会がオンライン開催になったこと、研究協力校へ赴いて授業データを収集する機会を減らさざるを得なかったことなどに伴い、当初予算立てしていた旅費が少なくなったことが大きな要因の一つである。また、研究協力者との協働により開発した教授実験で必要な授業データ収集機材などが研究協力校に整備されていたこと、学会誌論文掲載料・論文別刷代が計上した予算よりも安価だったことなども要因である。 令和4年度は、「数学教師、大学教員、教職大学院生」の協働による単元開発、授業設計、授業の省察と改善に向けた「理論と実践の往還」の体制の構築に関する考察を進めるために、Web会議システムを用いた共同研究者や研究協力者との議論を継続しつつも、研究協力校に赴く回数を増やして研究に必要な質的データを収集する必要がある。令和3年度から繰り越す助成金の一部は、そのための旅費に使用する。また、日本数学教育学会秋期研究発表学会開催地が福岡教育大学になるなど、学会の開催地が遠方になり、当初の予算では不足するため、そのための旅費にも使用する。さらに、数学教師の授業観察や授業時の視線移動に着目する視線移動の計測データを用いた研究を推進するための経費にも使用したい。
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