研究実績の概要 |
本研究は、中堅期に向かう教師(採用5年~8年程度)を対象に、優れた体育授業実践を可能にする彼らの実践的力量形成の過程を実践的思考様式の視点から分析し、その内実を実証すること、また、これらの成果のもとに、教師教育場面への具体的な活用方法についても検証することを目的としている。 4年計画の2年次あたる今年度は、3名の中堅期に向かう教師の経年的変化からみた「教授戦略」(山口ら,2010)発揮の変容の検討を試みた。具体的には、①被験教師に一単元の授業実践を依頼した。②実践までに、実践予定教材の「展開型表現様式」(山口ら,2010)の記述を依頼した。それをもとに「運動教材における児童のつまずきの類型とその手だてに関する知識」の吟味、伝達を行った。③指導プログラムの作成を依頼し(指導時間は任意)、単元序盤・中盤・終盤の3単位時間分の授業収録を行い、「出来事」調査票(厚東ら,2004)への記述を依頼した。④児童の学習成果を測定するために「態度測定」(小林,1978)を実施した。⑤単元終了後、収録VTRの視聴と「再生刺激法」(佐藤,1990)を実施した。 その結果、1名の教師は昨年度と同様、モニタリング戦略(児童の動きの診断)とコミットメント戦略(相互作用)及びロック・イン戦略(練習活動や用具・教具の工夫)を土台に、昨年度に比して、インセンティブ戦略(課題の明確化)及びシグナリング戦略(課題解決の観点の暗示)が効果的に発揮されていたことが認められた。それにより、学習成果(態度得点)の向上に寄与していたものと考えられた。この背景として、運動教材(高跳び)に対する児童のつまずきとその対処法に関する知識に介入(説明・提示)し、被験教師がそれらの知識(形式知)を授業実践の中で実践知として身につけていったことによると推察された(なお、残りの2名の被験教師の結果については現在分析中である)。
|