本研究の目的は、理科における批判的思考に関する先行研究を統合的に整理するとともに、教師の指導実態を調査(研究1)し、教師主導と学習者主体を接合するハイブリッド型の指導方略によって、児童生徒に批判的思考力を獲得させる理科授業プログラムを構築・評価する(研究2)ことであった。これらについて、次の結果を得た。 (研究1)選択式と自由記述式の質問紙を作成し、小学校教師を対象にして、理科授業における批判的思考の指導実態を調査した。その結果、「多面的思考」「実証性の重視」「根拠の重視」など5つの因子を抽出した。それらを詳細に分析した結果、教職経験年数に関わらず、「実証性の重視」は得点が高く丁寧な指導がなされている一方、「根拠の重視」は指導に課題があることがわかった。 (研究2)まず、小学5年生「振り子の運動」の単元において、ハイブリッド型の指導プログラムを開発した。具体的には、(1)批判的思考の6つの力を教師が児童に説明した後、考案した「熟考ワークシート」を用いて、6つの力の働きを促す思考の方法を指導しながら課題を解決させる、(2)児童の考察内容と教科書の記述内容に違いを生じさせたり、多くの実験結果をもとに考察する必要性を生じさせたりする指導を行った。検証の結果、「探究的な思考」「合理的思考」「自己による反省的思考」などの育成に寄与したことが明らかになった。 次に、中学1年生「力による現象」「植物の体のつくりとはたらき」の単元において、同様の指導プログラムを開発した。具体的には、(1)批判的思考を活性化させる3つの刺激剤を作成し、指導過程に導入する、(2)活性化した状態を維持させるための自己評価活動を行わせる指導を行った。検証の結果、自己評価活動の有効性は示唆されたものの、「反省的な思考」の育成にはつながらなかったことが明らかになった。
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