研究最終年度である2023年度においては、特に道徳読み物教材の読み取りについて、理論と実践の双方から研究を行った。2023年度の業績は、①宮本浩紀・打越正貴「心理学におけるイメージ概念活用の前史― イメージは知覚か概念か経験か? ―」/②打越正貴・宮本浩紀「学校教育における学習とイメージ研究史の結節点―「イメージ論争」の帰結に着目して ―」/③打越正貴・宮本浩紀『ことばをひきだす授業論―「色と形」で子どものアタマとココロが見えてくる―』、以上三点であった。 ①を通じて、20世紀の後半、人間の認知を扱う諸学問に新たな研究の動向がみられたことについて取りまとめを行った。本研究では、イメージに関する概念整理が進んでいない状況に焦点を定めたものである。その理由の一端を解消すべく、特にヒュームの観念の分析を行うことで、道徳科の授業を通じて人間の理解がどのようになされるかについて検討した。②を通じて、イメージ概念を学校教育の学習にどのように活用するかについて考察した。その結果、教育学者のブルーナーが晩年に注目した「意味」(meaning)の役割を通じて、道徳読み物教材の読み取りに一人ひとりの経験が役立つことが見出された。③を通じて、子どもの頭の中に浮かぶことをいかにして表出するかについて検討を行った。頭の中を可視化する手立ての解明を通じ、子どもによる道徳読み物教材の読み取りがどの程度達成されているかについて確認できる手法の紹介を試みた。 研究期間全体を通じて実施した研究として特に明記しておきたいのは、③『イメージからことばをひきだす「色と形」の授業づくりアイデア』の出版である。道徳読み物教材の読み取りは、子どもの知識と経験の想起が求められる。その点を加味した学習方法を道徳科の実際の授業の様子と合わせて提示できたことは大きな成果となった。
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