本研究は,子どもが主体的・協働的に問題解決を進める力を育成するための指導と評価の一体化による,理科授業デザイン方略の開発を目的として取り組んだ。具体的には,Hadwinら(2011)が指摘する3種の調整学習の概念(自己調整、共調整、社会的に共有された調整学習)に着目し,これらの調整の内部構造の構成に関わる認知・メタ認知・動機づけ変数の観点から,それらの個人と他者との相互作用における各変数の調整過程を精査した。結果として,研究期間全体を通じて,以下の諸点が明らかとなった。 (1)科学的探究において,自己調整,共調整および社会的に共有された調整の過程に関して,認知・メタ認知・動機づけの各要素から,その内部構造を可視化し,モデル化することができた。 (2)個人の認知・メタ認知・動機づけの各要素は,メタ認知をハブ機能として相互連関することが明らかとなった。この際,メタ認知は認知および動機づけの双方に対して機能することで,高いレベルでの動機づけを維持しながら探究過程を推進できた。共調整の過程では,自己の認知から他者の認知へとメタ認知の範囲を拡張することによって,自己と他者の間で一時的に自己調整を協調させ,アプロプリエーションを機能させながら新規の考えを創発することが可能となった。また,社会的に共有された調整の過程では,教師の介在を通じた認知・メタ認知・動機づけの各要素の共有による相互関連の活性化を通じて,科学的探究の収斂と結論の導出が促された。 (3)科学的探究の調整学習において,科学的説明の構築に関わるメタ認知の知識成分(メタ認知的知識)を具体化することができた。 (4)教師のフィードバックの機能は,子どもがその内容を「自分自身や他者の取り組みの質を判断する能力」である評価判断を働かせることによって,促進されることが明らかとなった。これによって,指導と評価の一体化が促進された。
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