研究課題/領域番号 |
21K02574
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
畔上 一康 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (70778034)
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研究分担者 |
吉永 紀子 同志社女子大学, 現代社会学部, 准教授 (30344823)
宮崎 清孝 早稲田大学, 人間科学学術院, 名誉教授 (90146316)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バフチン / 対話的授業論 / 省察の深化過程 |
研究実績の概要 |
本研究は,主として生活科・総合的な学習の授業実践を対象として,バフチン的対話的授業論に基づく教師の省察の深化過程の解明を通して,教師の省察が機能した主体的対話的な授業実践モデルの開発を目的とする。理論的研究としてショーン(1983)の<行為の中の省察>に着目し,授業内における教師の省察的思考の起動と展開について,バフチンの対話性概念を用いて分析する。臨床的研究として,複数の研究協力者の実践を対象とし,その授業における省察の深化過程及び質的変容について,対話的な場の生成・展開との関係を視点に,理論的研究を参照しつつ検討する。更に教師の省察的思考の質的変容によってもたらされる学習効果について,子どもの「学習としての評価」の観点から検証し,全体を通して教師の省察の機能化による主体的対話的な授業実践モデルを開発する。 (a) 理論研究 省察の中でも特にショーンのいう<行為の中の省察>が重要であり,対話的授業論と理論的に深く関わることが予想される。そこで<行為の中の省察>をバフチン的対話的授業論の立場から検討し,その対話性を明らかにし,(b)臨床研究の分析視点を導出する。 (b) 臨床研究 研究代表者及び分担者が継続して関わり研究対象としてきた長野県の生活科・総合的な学習の実践は,現在進めている科研費研究で,対話的な性格を持つことが示唆されている。そこでこれを主たる対象とし,複数の研究協力者の実践について,単なる授業観察に留まらず,具体的且つ協働的支援を通して,①教師の省察的思考と場の生成 ②省察的思考の深化が及ぼす子どもの学習効果について明らかにする。 (c)考察まとめとして,理論研究,臨床研究をそれぞれフィードバックさせることにより,<行為の中の省察>の対話性を明らかにし,教師の省察が機能する実践モデルを構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は理論研究と臨床研究の二つに分けてすすめている。 a) 理論研究では,省察の中でも特にショーンのいう<行為の中の省察>が重要であり,バフチン的対話的授業論の立場から検討し,その対話性を明らかにして (b)臨床研究においては,授業の対話性について,教師のリボイシィングとそれによる子ども及び教師の意味世界の拡張と深化を分析の視点として導出した。 (b)臨床研究として,教師の省察的思考と場の生成がどのようなものか,研究対象とする3つの授業を分析した。対象の授業は,小学校2年生の生活科における 「ウズラの飼育」と「山羊の飼育」である。この中で授業における対話性を視点として,次に授業過程での教師のリボイシィングなどの教授行為に注目しつつ,対話的授業論の視点から,教師の子どもや教材との関係の中で,教師がどのような省察的思考を起動展開させていくのか,分析している。「ウズラの飼育」においては児童のウズラとのかかわりに対する教師の理解と働きかけの変容を視点に,また「山羊の飼育」については,2つの異なる学級における,共に山羊の出産にかかわる事例の比較を通しながら,教師の省察的思考の比較検討を通して,事例分析をしている。ウズラの飼育の事例については,令和4年度伊那市立伊那小学校研究紀要「内から育つ」において発表した。またこれまで研究対象としてきた実践を含め,教育実践研究No22(信州大学教育学部附属次世代型学び研究開発センター紀要)発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている臨床研究では,更に研究協力校の複数の実践事例において,対話的授業論の視点から,子どもや教材との関係の中で,教師がどのような省察的思考を起動展開させていくのか,これまでの研究で明らかになってきた授業過程での教師のリボイシィングと子ども教師相互の意味世界の拡張を視点に分析していく。また,更に教師個々固有の経験や「観」が,対話の場を生み出す教師の思考と行為に,どのような影響を及ぼしているのか,この点も明らかにしていく。また,省察的思考の深化が及ぼす子どもの学習効果について,教師の省察的思考の質的変容が対話的な授業を改善し,子どもの主体的対話的な学びにつながるか,「学習のための評価」とともに「学習としての評価」の観点から検証する。 更に研究全体の考察まとめとして,海外の研究協力者の意見も聴取しつつ,理論研究,臨床研究をそれぞれフィードバックさせることにより,<行為の中の省察>の対話性を明らかにし,さらに省察の深化によって具現される子どもの主体的対話的な学びについての示唆を得て,教師の省察が機能する実践モデルを仮構する。これらの研究については,来年度,日本生活科・総合的学習学会誌「せいかつ&そうごう」に投稿発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用予定の助成金の主たるものは,アメリカ合衆国の研究協力者2名がかかわる研究機関(大学)及び幼稚園,学校の視察及び知見を聴取するために共同研究者2名と共に渡米を計画している。この渡米は本年度実施する予定であったが,コロナ禍の状況で次年度に延期したものである。
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