研究課題/領域番号 |
21K02600
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
松本 智恵子 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 准教授 (80377043)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 統計・データサイエンス教育 |
研究実績の概要 |
Research on the teaching of classes on probability distributions and hypothesis testing in high school mathematics departments and universities 現在はビッグデータの時代であり、統計・データサイエンスの分野はおそらくこれまで以上に重要になっている。統計・データサイエンス教育が直面する課題を克服するために必要な提言を行うために、現在の数学カリキュラム、特に高等学校における指導に何が欠けているかを定量化する必要がある。私たちは、確率分布と仮説検定に焦点を当て、高等学校教師を対象としたアンケート調査を実施し、教師が統計的仮説検定を指導する際に遭遇するさまざまな指導上の問題や指導上の困難を明らかにしたいと思っている。しかしながら、大規模なアンケートを実施する許可をまだ得ていないため、高等学校教師が直面する指導上の困難を理解するために小規模なインタビューを実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度行った高等学校教師が直面する指導上の困難を理解するための小規模なインタビューと文献調査によって、統計的推測に関する現在の状況と問題点についてはまとめることができた。しかしながら、問題点を踏まえた、分布を考慮した高等学校における推測統計学の指導案については作成が間に合っていない。実際の授業指導と、授業を通した指導案の評価についても同様である。 現在発行されている数学Iの教科書においては、帰無仮説が棄却されるかどうかを、「帰無仮説が正しいと仮定したときに、アンケート結果『以上』のことが起こる確率」から判断しているが、なぜ『以上』を考えないといけないのかについて生徒が混乱していることが分かっている。数理統計学の立場から考えると、対立仮説も単純仮説(ただ1個の数値で仮定する)で問題ない(ネイマン-ピアソンの補題や検出力の話をするときには、対立仮説も1個の数値に設定した上で論理を展開している)が、数学B(連続型データ・正規分布に従うデータの統計的推測を考える)との繋がりを考えると、対立仮説は不等号で考えた方が良いと考える。 更に、学習指導要領解説では『「起こりえないこと」かどうかの基準として,平均から2s(sは標準偏差)あるいは3s離れた値を用いることが考えられる』という記載があるが、この記載に沿った記述がある教科書は見当たらない。この点を考慮した指導案を作成する必要があるのではないかと考える。
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今後の研究の推進方策 |
数学I「仮説検定の考え方」について、現在発行されている教科書に一部準拠しつつ、帰無仮説が正しいと仮定したシミュレーションと、その結果から計算される平均と標準偏差を用いて、学習指導要領解説に書かれているR.A.Fisherの「有意性検定」における「仮説を棄却する基準」である『「起こりえないこと」かどうかの基準として,平均から2s(sは標準偏差)あるいは3s離れた値を用いることが考えられる』から帰無仮説を棄却するかどうかを判断する指導案を作成する。その上で、できればどこかで、作成した指導案に沿った授業を行い、その結果についての評価を行いたい。 数学B「統計的推測」については、GIGAスクール構想により全生徒が授業でPCを参照できるという状況なので、昔と同じような指導方法ではなく、数学Iの考え方とシミュレーションを用いた判断を踏襲し、確率分布とp値、平均と標準偏差(区間推定と棄却域)を用いた、生徒を混乱させない指導案を作成することを考えている。 更に、(高等学校では使わないとしても)ネイマン-ピアソンの補題や検出力のことなど、数理統計学の検定論については、推測統計学を指導する教員はある程度理解した上で指導した方が良いような気がするので、この点についても少し考えてみたいと思う。 仮説検定の問題点を把握する大規模アンケートについては、実施の目処が立たないため、どうすれば良いのかについて悩んでいるところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、2022年度の学会やシンポジウムのほとんどが対面・オンライン(リアルタイム)併用型になった。研究者の病歴(慢性腎炎、高血圧)により、対面参加は難しいと判断したため、学会やシンポジウムはオンラインで参加した。そのため、旅費としての費用が余っている。 発生した次年度使用額については、2023年度に交付された助成金と合わせて、オープンアクセスジャーナルの費用の支払いに充てる予定である。
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