研究課題/領域番号 |
21K02640
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研究機関 | 東洋英和女学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 智美 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 特任教授 (80240076)
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研究分担者 |
山村 滋 独立行政法人大学入試センター, 研究開発部, 名誉教授 (30212294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カナダ / 教育における公正 / 進学機会 / 社会経済的 / オンタリオ / 低所得 / ストリーミング / 中等後教育 |
研究実績の概要 |
2023年度は新型コロナ感染拡大予防のため、カナダでの聞き取り調査をひかえ文献・資料研究を進めて、2022年度にカナダ学会において発表した内容に補足し、より詳細な分析を行った。その結果は、カナダ教育学会の「2023年カナダ教育研究No.21」において報告した。 経済的格差の急速な拡大にともない、教育における公正(equity)の実現と進展は喫緊の課題である。経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development, 2018, 以下OECD)によれば、教育における公正とは学校や教育制度によってすべての子どもたちが平等に学習機会を与えられことを意味し、その結果、社会経済的な地位、ジェンダー、家庭環境等と関わりなく、子どもたちは教育を受けている間、数学や理科などの認知的分野において同程度のレベルの成績に達し、人生の満足度や自信といった社会的心理的ウエルビーイングにおいても同程度のレベルに達する(OECD, 2018, p.22)ことを指す。しかし、公正とはすべての子どもたちが平等の教育成果を得ることではなく、子どもたちの間にある差が自身で制御できない社会経済的背景や環境とは関連がないことである。さらに、教育における公正は、異なる背景の子どもたちが平等に将来の労働市場で成功し、社会の成人メンバーとして目標を実現できるような望ましい中等後教育(PSE)を修了できることを求めている(OECD, 2018, p.22)。 オンタリオ州では、2021年9月の9年生数学ストリーミング廃止を皮切りに、2022年9月からは9年生のストリーミングは廃止されることになった。この脱ストリーミングは教育における公正性の向上のための1つの決断であった。現時点で、その効果について議論することは早計であり、今後の分析と議論が待たれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究はコロナ禍の影響を受けて遅れているのが現状である。カナダでの聞き取り調査を実施することができなかったために、研究計画の1年間の延長を申請し認められている。現在は、本来計画していた現地における聞き取り調査を実施するべく日程等を含めて検討中である。具体的には、マニトバ州のウィニペグ大学の機会基金(Opportunity Fund)やモデル・スクール(Model School) の現状や課題について現地で聞き取り調査を行うために、まずは文献・資料を収集している。さらに研究代表者らが研究してきた低所得層の大学進学機会拡大で成果を出しているNPO パスウェイズ・トゥ・エデュケーション( 以下パスウェイズ)のパスウェイズ・ウィニペグと大学の取組みとの連携について資料を収集しており、内容と課題について把握し、現地での調査内容に反映させたい。 また、オンタリオ州の中等教育段階における脱ストリーミング後の中等学校への影響について文献・資料調査によってまとめる準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
カナダにおいて聞き取り調査を実施すべく、調査計画を検討中である。具体的には、マニトバ州のウィニペグ大学の機会基金(Opportunity Fund)やモデル・スクール(Model School)に関して、関係者に対してその取組みの経緯、アウトリーチの内容や影響など、これまでの低所得層の大学進学機会拡大に関する成果と課題、今後の展望について聞き取り調査を行う。また、近隣のコミュニティと大学やその進学機会拡大のための取組みとの関わりやコミュニティにおけるサポート状況について、現地に出向くまでの事前の準備や調査を文献や資料を通して入念に行う。 さらに、オンタリオ州の中等教育段階における2020年以降の脱ストリーミングの成果と学校教育に及ぼす影響について資料等を中心に分析する。脱ストリーミングに移行してからまだ日は浅く、コロナ禍の学校教育や子どもに及ぼす影響も少なくはないが、オンタリオ州高等教育質保証審議会(Higher Education Quality Council of Ontario)等が脱ストリーミング後の中等学校における影響について分析を始めており、情報として資料を入手している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はコロナ禍の影響を受けてカナダにおける現地調査ができなかったために遅れており、特に出張による旅費が使用できなかった。そのために、2024年度での使用を決めている。この年度の使用は、マニトバ州やオンタリオ州での聞き取り調査を研究分担者とともに実施するためであり、また、文献購入のための物品費として予定している。
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