前年度までの研究実績として、正課内外・キャンパス内外のラーニング・ブリッジング(学びの架橋)を学生に促す「学び・経験への関与のあり方」を明らかにしたが、令和5年度は本研究のもう1つの軸である大学卒業後のトランジションに焦点を当て、大学時代のそうした経験が初期キャリアの思考行動特性へ及ぼす影響を統計的手法で分析し、成果を論文として公表した。具体的には、上述の学び・経験への関与を定量的に評価する尺度(学生エンゲージメントfor LB)を開発し、同尺度を用いて大学卒業後3~4年目の社会人への質問紙調査(有効回答 850名)を実施した。結果、同尺度が、大学生活でのキャリア意識や教職員との関わり、正課内外・大学内外の活動バランスといった要素と強い関係をもつこと、そして仕事で発揮されるプロアクティブ行動や経験学習行動等に対して、大学生活の他変数と比較しても一定の正の効果をもつことが確認された。 研究期間全体を通じた成果としては、留学やインターンシップ/オンライン上の活動など正課内外・キャンパス内外の多様な文脈を行き来する現代の大学生が、それらをどう相互に意味づけ、自らの学びへと繋げているのか、その実態の一端が明らかとなった。さらに今後求められるリカレント教育等での生涯の学びには、こうした主体的な学びの意味づけや学習リソースの選択が不可欠であることから、意味づけを学生に促す要因(学び・活動への関与のあり方)を抽出した。これら学生の語りから得た知見を先行する理論・概念と対照させて示したことは、大学生の学びと成長研究に新たな視角を提示した。また新たな尺度を作成し、そうした要素が実際に初期キャリアの思考行動特性に及ぼす影響を明らかにしたことは、大学-社会への接続を探る今後のトランジション研究の進展へ寄与するとともに、大学教育における学生支援・学修支援の実践にも一定の示唆をもたらす成果と言える。
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