本研究においては,令和3年度「志」総合選抜で使用した英文や日本文は著作物使用許諾が未完了のため,それと類似したサンプル問題を代用する必要があった。研究計画当初は,具体的な問題構成を対照することによって両者の類似性を示せると判断したが,研究を進める過程で,より客観的に検証する知見を得た。2023年度の課題は,以下の2点であった: 1. 語彙レベルの分析 オンラインツールのNew Word Level Checker(NWLC)を使用して語彙難易度の解析を試みた。しかし,比較対象の英文には,NWLCの語彙リストに含まれない語彙が存在し,これらの語彙の適切な処理方法が不明であったため,語彙レベルの分析を進展できなかった。 2. 可読性の統計分析 従来の標準的な可読性指標は,単語の長さや文の長さに依存して難易度を一面的に評価するため不十分であると判断した。文や語句の結束性,文体や論理性,言語および談話の特性など,より多面的な特性を精緻に評価するCoh-Metrixを用いた。The University of Memphisより提供されたCohmetrix3 desktop programを用い,各大問の英文単位でデータを算出した。12の指標を活用し,主成分分析を通して最終的に算出された第1,第2主成分の主成分得点についてクラスタ分析を行った。3つのクラスタが示され,比較対象の英文の類似性は概ね高いことが示された。 2021,2022年度の複数年のデータ分析を通じて,サンプル問題の構成概念の妥当性,信頼性,意図した学力の差異を弁別する識別力が示唆され,研究協力者を対象としたアンケート調査から,基礎学力の担保や早期実施に対する配慮に関して肯定的な回答が得られた。2023年度の研究結果を総合し,「志」総合試験においても類似した結果が推察されることを統計的に示すことができた。
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