• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

高専教育は何故難しいのか?ー持続可能な高専教育のための当事者エスノグラフィー

研究課題

研究課題/領域番号 21K02676
研究機関福島工業高等専門学校

研究代表者

笠井 哲  福島工業高等専門学校, 一般教科, 教授 (90233684)

研究分担者 高橋 宏宣  福島工業高等専門学校, 一般教科, 教授 (90310987)
車田 研一  福島工業高等専門学校, 化学・バイオ工学科, 教授 (80273473)
澤田 宰一  福島工業高等専門学校, 一般教科, 准教授 (80647438)
江本 久雄  鳥取大学, 社会システム土木系学科, 准教授 (90556698)
金澤 伸一  新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20580062)
渡辺 賢治  常磐短期大学, 幼児教育保育学科, 准教授 (60734986)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード高等専門学校制度 / 卒業者エスノグラフィー / テクニカル・スキル型自意識 / 学歴キャリア自意識 / 実質的専門性の限界 / 人材輩出ミッション領域 / 葛藤的性格 / 特殊性-非特殊性問題
研究実績の概要

Ⅰ. 高等専門学校の卒業生へのエスノグラフィー・ダイアログをとり,卒業後の<当事者所感>のありようを調査した.この作業を通じ,以下の事項が示唆された.
①異なる学習歴を経過してきたコーホートと比較し,基礎的学識よりはテクニカル・スキルにおいて自分達に優位性がある,という学修キャリア意識が定着している傾向がある.②学歴スクリーニングが社会内における人的資本の配置に際して無視できない程度には作用している可能性を意識しており,その状況への対抗策として,内的な葛藤はかかえつつも,むしろ結果的には高等専門学校在学を有意与件として利用する姿勢があること.③高等専門学校在学期間中にデフォルトとして附与されていた<高専⇒専門領域での強さ>型の自己規定様式のバイアスに対しては懐疑的になる率は無視小ではないこと.
Ⅱ. 高等専門学校での教員職経験者へのエスノグラフィー・ダイアログをとり,卒業後の<当事者所感>のありようを調査した.この作業を通じ,以下の事項が示唆された.①高専制度創設時に謳われた高専のミッションである「中級/中位/中堅技術者」という表現の含意の不分明さが現場に居る教員の職務意識のありかたに大きく影響する.[例えば<イノベーション>というしばしば高専教育にタグ付けされる表現は,逆に,高専がカバーすべき機能ではなく,むしろ意図的にそこから離れる方向性に高専教育を沿わせることが法的にも正当性がある,という考えなど] ②在学者が高専教育への不適合を自意識の中へ抱え込むケースが多く,長期にわたる心理的フォローを学校機能へ内在させることが難しいことが多い.③早期速成型教育実施の困難さが(在学期間の長さに因り)長期化する.現在これらの結果を教育社会学分野での学術発表へと纏めるための作業を継続している.(2023年度に全国大会と論文誌に発表の予定)

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2021年度に続き2022年度も<高等教育当事者エスノグラフィー>を実施した.その結果,以下の知見と展望が得られた.①高専教育に対する一般的な通念としての<早期からの高い専門性・領域の特化性>の性格は,5年間の準学士課程の在学者自身の不適合感覚を深刻化させやすい.(ただし,高専の学修課程の専門性の程度に関しては種々の懐疑もあり,別途集中的な検討が要される.)②上記の「不適合」に対しては現場では様々な個別的対応が為される.このようなケースにおいて,必ずしも高専の専門分野プロパーではないスタッフが個々の努力として対処している事情が指摘された.③高専教育のコンテンツ自体は明確に職業訓練の性格をおびているのではなく,むしろ普通高等教育を相対的に短期間で実施することに重心がおかれている.このため,高専専門教育課程の段階では通常の中等教育の全体を確実に理解していることが求められるが,高専教育の短縮型性格がこの条件の充足を困難にしている可能性がある.④入学時の15歳に近い時期を主に担当する教員と,20~22歳の年齢を主に担当する教員とのあいだで,高専教育の基本的属性や平均的な社会的使命をめぐる基本的なパースペクティブが過大に乖離しやすく,学校運営,経営上での歩調を合わせるのが困難である.⑤在学生と教員のあいだでの「高専に居るときに為す」べきことの領海内用の亀裂がある.このほかにもエスノグラフィー・ダイアログを通じ言語化されてきた諸般の課題群があり,それらの知見を整理・統合したうえで2023年度内の教育社会学分野の学術会合での発表や学術誌への投稿の準備作業が進捗している.

今後の研究の推進方策

2023年度は先行する2021,2022年度に実施した当事者エスノグラフィーの結果をもとに,以下の活動を励行する.①先行するエスノグラフィーで聞かれた意見をもとに,高専教育が内包する諸問題により直接に関係する当事者の声を拾い上げる.これまでのヒアリングから,中学校の卒業(15歳)という異例に早い学齢で<高等教育>を開始することに伴う甚大な困難が看過できないことが明らかになっている.中等教育が終了した段階で高等教育を開始する通常の大学型の学修構造に対し,中等教育部分をなかば略するかたちでほぼ大学の学修内容を教室内授業の形式で教授する高専教育の現実的な実施方法を,当事者の困難感覚を十全に重ね合わせたバイアス下で探索する.②高専制度は大学相当の専門教育を可能な限り早期化することにより修了学制を若年化し,さらにその性格をアカデミック側よりはプラクティカル側へ寄せているという想定下にある.若年化を<予備教育段階>のスリム化により達成するという手法は歴史的に旧制工専の制度と並行している.旧制専門学校の高等教育としての性格や社会への受容様式の史料研究を実施し,昭和30年代後半に発足した現在の高専制度下の学校群の貴重的性格との差を解明する.③先行2箇年度に得られた諸般の当事者の声をもとに,高等教育としての高専制度のサステナビリティを検討し,高等教育を専門的に対象とする分野での学会発表と学術論文投稿を敢行する.

次年度使用額が生じた理由

2021年度だけでなく2022年度においても,残念ながら継続したコロナ禍のため計画通りにエスノグラフィーを行うことが困難であった。そこで2023年度は,2021~22年度に続き各地各所において,いっそう多くのエスノグラフィーを計画している.このため,旅費やヒアリング記録の原稿整理に,継続的に研究費使途が生じる.さらに2023年夏季以降には,高等教育制度の諸問題を,オープンに議論できる基幹的学会の全国大会における研究発表と専門学会誌等への投稿を活発化させるため,科研費の充当はその重要度をいっそう増すようになる見込みである.

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] オンラインによる国語の定期試験は成立しうるかー令和3年度期末課題に対する学生の意識調査からー2023

    • 著者名/発表者名
      髙橋宏宣
    • 雑誌名

      研究紀要(福島高専)

      巻: 63 ページ: 46-55

    • 査読あり / オープンアクセス

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi