研究課題/領域番号 |
21K02679
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
松崎 丈 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (50400479)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ろう重複障害 / 手話 / コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究は、ろう重複障害児との手話を主とするコミュニケーションに関する調査研究および実践研究を通してろう重複障害教育に関する教員支援・研修のコンテンツ開発やコンサルテーションの進め方に関する基礎資料を収集することを目的としている。当該年度は、次のように2つの研究を実施した。 1つ目は、聴覚支援学校重複障害学級の教育実践に関する調査研究である。約10年以上ろう重複障害教育の実践経験を有する教員3名を対象に、中・長期的視点でろう重複障害教育の現状と課題を捉えるためのインタビュー調査を実施した。その結果、2つ以上の障害領域の専門性を学ぶだけでは十分とはいえず、ろう重複障害教育ならではの専門性や実践的見識の明確化も必要であるなどの語りが収集され、教員支援・研修のコンテンツ開発に直結しうる基礎資料となる可能性が示唆された。 2つ目は、ろう重複障害教育の実践の視点や手立てを検討する心理学的実践研究を2年目から行う計画であったが、コロナ禍による研究への影響を考慮し、前倒しで当該年度から聴覚支援学校でろう重複障害児の教育実践をしている教員との協働でアクション・リサーチ及びコンサルテーションの手法を用いた実践研究を開始した。ろう重複障害児を積極的に受け入れている聴覚支援学校に本研究の協力を依頼した結果、聴覚支援学校2校(以下、A校、B校とする)に3年間継続して協力頂くことになった。当該年度はA校に3回、B校に1回訪問し、それぞれ4事例(ダウン症候群2名、チャージ症候群1名、自閉スペクトラム1名)、3事例(チャージ症候群1名、ASD1名、言語発達遅滞1名)について行動観察およびコンサルテーションを行った。コロナ禍の影響でB校のみ予定していた3回ではなく1回になったものの、ろう重複障害児の行動理解から必要な教育実践につなげていくための視点や手立てを見出すエピソード群を収集することはできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
手話を主に用いるろう重複障害教育実践の現状と課題に関する調査研究で、当初は特別支援教育関係の学会や研究会等で発表されているろう重複障害教育に関する実践報告をしている重複障害学級担任をインタビュー調査の対象とする予定であった。しかし前述のろう重複障害児を積極的に受け入れている聴覚支援学校2校(A校、B校)においても人事異動が短期化しており、重複障害学級担任も知的障害や肢体不自由など他障害特別支援学校から異動した教員が担任になり、かつ約5年後で他のところに異動する一方で、ろう重複障害教育そのものを長年経験している教員は減少傾向にあることが見えてきた。 そこで本研究の目的である基礎資料の確実な収集を目指して、調査対象を約10年以上ろう重複障害教育の実践経験を有する教員3名(勤務先は異なる)に変更した。コロナ禍により対面でのインタビューが困難となり、最終的にZoomによるインタビューに切り替え、実施時期も年度末までぎりぎり行うことになったものの、長年の経験を有する教員3名の語りから教員支援・研修のコンテンツ開発やろう重複障害コンサルテーションの基礎資料になりうるデータの収集はできたと考える。 2年目の研究計画を前倒しで行ったろう重複障害教育実践の心理学的実践研究については、様々な障害のあるろう重複障害児への教育支援につなげる行動理解やニーズ把握の視点や手立てを検討するために、A校とB校の協力を早めに確保し、それぞれ各3回の訪問を計画した。A校は予定通り3回訪問できたが、B校はコロナ禍で1回のみの訪問となった。A校は、同事例の観察を6月、11月、3月と一定間隔で訪問し、アクション・リサーチおよびコンサルテーションによる手法で行った。その結果、手話を主とするコミュニケーションの形成・展開への教育支援を考える多角的な視点と手立ての抽出につながるエピソード群を収集できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる令和4年度の研究については次の通り当初の研究計画にそって進める。 1つは、ろう重複障害教育を長年経験した教員3名の語りのデータについて計量的および質的な分析を行うことで、中・長期的な視点に立ったろう重複障害教育現場の具体的な実践的課題の全体像を明確にする。また、ろう重複障害における教員支援・研修のコンテンツ開発やコンサルテーションの実践における基本的な視点や手立てを検討し、研究の成果を論文にまとめて発表する。なお、この研究の知見を他の聴覚支援学校でのコンサルテーションなどで検証していくことも考えている。 もう1つは、1年目に前倒しで開始したA校とB校における心理学的実践研究の実施は令和4年度も継続可能であることを確認した。両校とも年3回訪問して、アクション・リサーチおよびコンサルテーションによる手法で行いながら本研究のテーマに関連するエピソード群を収集する。1年目から収集しているエピソード群については発達心理学、心理言語学、手話言語学の知見を援用して記述・分析する。この分析結果をもとに、ろう重複障害児の行動をどのように観察し、その行動の意味をどのように仮定するか、また、ろう重複障害児とのコミュニケーョンの形成と展開を目指すためにどのような視点や手立てが求められるのか、といったろう重複障害教育の方法論的な探求を行う。A校とB校のろう重複障害教育の現場でその方法論を検証することで、ろう重複障害児の実態把握と手話を主とするコミュニケーションの形成と展開に関する教育実践の枠組みを構築することを試みる。 最終年となる令和5年度の研究については、A校とB校における心理学的実践研究の実施を継続するとともに、これらの研究の成果をもとに手話を主とするコミュニケーションの形成や展開に関する教育的な視点と方法の体系化を試み、教育現場で実用可能な形にまとめて成果を発表することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大によりB校での研究データ収集が不可となったために旅費を当初の計画通りに使用することができず、次年度使用額が生じた。令和4年度はA校とB校の研究データ収集にかかる旅費として使用する計画である。
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