本研究では、小学生を対象として、漢字や図形を知覚する際の眼球運動を計測し、読み書き困難児の視覚情報処理過程の特徴を明らかにすることを目的とした。具体的には、読み書き困難の有無による漢字写字課題遂行中の注視の特徴を比較するとともに、神経心理学的検査を用いて、図形知覚における眼球運動を把握することで、読み書き困難児の視覚情報処理過程を明らかにする。 2022年度に検査の実施手続きを見直した。具体的には、漢字の知覚に関連する視覚的な図形認知を把握するため、刺激図形をReyの複雑図形から図形の部分処理と全体処理に関する課題(global-local図形)に変更した。刺激図形は、大平(2013)を参考にして、全4問作成した。また、実在しない漢字(以下、偽漢字)は6文字作成し、それぞれ小学校1、2年生で学習する漢字の構成要素を組み合わせた。実施手続きとしては、注視点追跡装置(Tobii Technology社製T120アイトラッカー)を用いて、図形および偽漢字の視写課題遂行中に、各刺激を見て覚える際の眼球運動を計測することとした。図形および偽漢字の視写課題は、画面中央に10秒間提示され、画面上から消去された後、対象児は記憶した偽漢字を回答用紙に再生するものであった。2023年度は、この検査手続きを用いて、本学の相談機関に来談した小学生を対象に検査を実施することにしたが、限られた研究期間において被検者を確保することが難しく、充分な数のデータを得ることができなかった。研究再開後は、事例数を増やすとともに、図形や漢字の視覚的認知に特徴のある事例を抽出し、漢字習得のつまずきと関連させて、より詳細な検討を加えたい。
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