研究課題/領域番号 |
21K02777
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
高木 昇 富山県立大学, 工学部, 教授 (50236197)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 福祉情報工学 / 障害者支援 / アクセシビリティ / ベクタグラフィックス / 形式言語 / 構文解析器生成器 / コンパイラ |
研究実績の概要 |
2022年度には主に次の3つの課題に取り組んだ.①オブジェクト指向型図形記述言語(vision)の開発環境の変更;②visionの機能拡張;③点図ディスプレイ(Graphiti)の制御用インタフェースの構築とGraphitiの有効性検証. ①2021年度まではC++言語を用いて独自に字句解析器と構文解析器を開発していた.しかし,これら2つの解析器の独自開発は,visionコンパイラの迅速な開発を困難にする.このため,字句解析器生成器と構文解析器生成器を兼ね備えたANTLR4を利用した開発環境を構築した.このため,これまでのvisionの文法をANTLR4の生成規則で書き直した.その後,ANTLR4はJavaで字句解析器と構文解析器を生成するので,これらを用いてvisionのコンパイラのJavaコードを編集した. ②visionに幾つかの機能を追加した.コイルなどは楕円弧などの同一基本図形を,描画位置を変化させながら複数回繰返し描画する.このための繰返し制御機能をfor文として追加した,関数や方程式を記述できる機能を追加し,グラフを描画する機能を追加した.なお,記述に利用できる関数は,多項式関数,三角関数,指数関数や対数関数などの初等関数である.その他,円弧上の任意の点座標を取得できるプロパティなどの機能を追加した.TikZを比較対象としてvisionのユーザビリティの評価実験を行った.有効性並びに効率性に関する定量的評価においては,TikZとvisionでは大きな差は計測できなかった.しかし,アンケート調査による主観評価ではvisionの方がTikZより満足度が高く評価された. ③点図ディスプレイGraphitiのインタフェースをPythonで開発した.また,Graphitiの有効性を検証するための簡単な評価実験を実施し,その特徴を分析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重度視覚障害者が独力で図を描画するための作図支援システムの開発が本研究の目的である.この目的を達成するためのアプローチとして次の2つの課題を設定した:①全盲などの重度視覚障害者でも利用可能なオブジェクト指向型図形記述言語(vision)の開発と,②作図した図をリアルタイムに確認するための点図ディスプレイを用いたインタフェース開発. 重度視覚障害者がvisionを利用するためにvisionの備えるべき機能を次の仮説として設定した.(1)基本図形のオブジェクトを生成する際の特徴点を極力数値で指定しない文法とすること;(2)生成したオブジェクトを識別子に割当てメモリ上で管理できること.これによって生成済オブジェクトの移動,回転,拡大縮小などの編集を可能にする;(3)さらに,生成済オブジェクトの特徴をプロパティとして容易に参照できるようにすること,などである.上記の仮説に基づき,現在まで以下のvisionの機能を実現した.(a)次の基本図形のオブジェクトが生成可能:線分,矩形,円,楕円,円弧/楕円弧,放物線,3次ベジエ曲線,初等関数で表現できる関数と方程式のグラフ,テキスト;(b)次のオブジェクト編集機能を実現:移動,回転,接触,グループ化/解除;(c)繰返し制御文(for文).visionコンパイラを試作し,visionコードをLaTeXコードに変換することが可能である. ②の課題では,visionで生成した図を点図ディスプレイで表示し,リアルタイムに触察できるシステム開発が中心的となる.このシステム開発のために,2022年度には点図ディスプレイGraphitiの制御用インタフェースの試作ならびにGraphitiの触察に与える効果を実験的に検証し,その特徴を確認した. 以上の内容から,現在までの進捗状況を「おおむね順調に展開している」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は本研究課題の最終年度となり,以下の課題を推進する. ①visionの機能拡張:visionにユーザ定義関数の機能を追加する.ユーザ定義関数の機能追加によって,例えば,バネやコイルのような頻出する図形をユーザ定義関数としてまとめることが可能になる.これによって,重度視覚障害者はパッケージ化されたユーザ定義関数(バネやコイルなどの図形オブジェクトの生成関数)を呼び出し,適切なパラメータを設定するのみで,複雑な図形オブジェクトを描画できる. ②顕在化した課題の解決:2022年度に実施したユーザビリティ評価実験から顕在化した課題の解決に取り組む.TikZのコードと比較してvisionのコードは一般的に長くなる傾向にあることが課題として明らかになった.この要因の一つにvision文法の複雑さが挙げられる.事実,複数の被験者からTikZと比較してvisionは文法が複雑との指摘を受けた.このためvision文法の簡素化に取り組む.また,予約語の文字数が多いことも指摘されたので,予約語の簡素化を実施する.構文エラーが無いにも関わらず期待する図形が描画されないエラー(実行時エラー)への対応が十分でない.エラー処理の高度化を検討する. ③visionとGraphitiを連携した作図支援システム開発:当初の計画通り,visionにより作成されたコードをGraphitiに表示することで,重度視覚障害のユーザが作図結果を逐次的にリアルタイムに触察できるインタフェースを開発する.このインタフェースを実現するためには,visionコードの解釈は現在のコンパイラ方式に加えてインタプリタ方式も導入する.最後に,試作した作図支援システムのユーザビリティ評価を実施し,これまでの研究成果を総括すると同時に将来の課題を顕在化させ当該課題をまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により,申請当初予定していた国際会議がオン欄開催になるなど,旅費の支出が大幅に減少したことが主な理由により,次年度使用額が生じた.
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