2023年度は主に次の3項目の研究を実施した.① 開発中の図形記述言語Visionの機能拡張;② 点図ディスプレイGraphitiとVisionの連携による作図支援システム試作とそのユーザビリティ評価;③ Visionソースコードの閲読による幾何的な基本図形の組み合わせから成る線図形へのアクセシビリティの基礎的調査.以下,各項目について概要を説明する. ① 本研究で開発する図形記述言語VisionのコードをLaTeXの描画パッケージTikZのコードへの自動変換機能を追加した.LaTeXはテキストベースの組版処理システムであり,全盲の視覚障害者が利用可能なため本研究課題との親和性が強い. ② Visionで描画した図をGraphitiに表示するインタフェースを試作し,そのユーザビリティを評価した.評価実験の概要は次の通りである.評価実験には全盲物理学教員1名に参加してもらい,約5時間のVision事前学習の後,3種類の図を描画してもらった.3年以上の経験を有するTikZと作図完了時間やコンパイル回数を比較し,事後インタビューを行った.結果,Visionの優位性は検証するに至らなかったものの,Visionの将来的な可能性は被験者から示唆された. ③ Visionコードは線などの幾何的な基本図形の組み合わせにより図形を記述する.この事実はVisionコードの閲読により図の概要を想像できる可能性を暗示する.本研究では新たにこの仮説を検証するための基礎実験を行った.ビットマップ線図形から構成する基本図形を抽出し,ランダムに記述したVisionコード,ヒトが記述したVisionコード,及び開発したシステムが記述したVisionコードの3種類について,その閲読容易性を複数の被験者を対象に実施した.結果,システムの記述するVisionコードはランダムなコードよりも想像し易いという示唆を得た.
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