研究課題/領域番号 |
21K02783
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
渡邊 博之 日本大学, 工学部, 研究員 (40147658)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | クレペリン検査 / 回答数 / 脳波分析 / リズム |
研究実績の概要 |
SCORM対応の記述式問題のモデルとして繰り返し学習であるクレペリン検査を対象に,学習量である回答数を増すためにメトロノームを鳴らす方法を提案し,回答数を最大とするリズムを実測値で求め,回答数が増すメカニズムを脳波によって解明した.また,記述式コースウェアでは無解答問題が生じるため,解答に要した学習データと過去の条件を組み合わせてクレペリン検査の回答数の推定値を脳波を用いて得る新たな方法を提案した.その結果,次のことを明らかにできた. (1)リズム無しの得点を1.0倍のリズム[拍/分]として,全体的に1.0倍未満の遅いリズムでは回答数が増加せず,1.2倍で最大となることを示した.また,リズムに追従して回答している学生もいるが,リズムをBGMのような感覚で聞きながら回答している学生のため,回答数はリズムの倍数以上になることを示した. (2)リズム無しのクレペリン検査のみの場合,リラックスと緊張とのバランスを示す指標(Cα/Cβ)と回答数との相関は左脳に認められたが,右脳には認められなかった.一方,リズムを聞きながらクレペリン検査を行った場合は,左脳においてはもちろんのこと,右脳においてもCα/Cβと回答数との相関がみられた.すなわち,リラックスと集中のバランスの増加及び標準偏差の縮小のみならず,左脳のように右脳が活性化するために得点が1.3倍に増加することを明らかにした. (3)クレペリン検査のみの脳波とリズムを聞くのみの脳波を用いて,リズムを聞きながらクレペリン検査をする場合のCα/Cβの推定方法を提案し,推定値でも最適リズムは1.2倍であることを示した.また,0.9~1.2倍のリズムの範囲において,実測値に対する推定値のCα/Cβは誤差10%以下で推定できることを示した.さらに,最適リズムにおける推定値と実測値の相関係数は0.91であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では,SCORM対応の記述式問題のモデルとして繰り返し学習であるクレペリン検査を対象に,回答数を得点として,脳波(EEG;Electro-Encephalo-Graphy)と回答数との関係を解析してきた.その結果,右利きの学生では左脳においてCα/Cβの値が大きいほど回答数が多く,両利きでは右利きに比べて左脳と右脳のバランスが良いため,さらに回答数が多いことを明らかにしてきた.しかし,これらの研究において,回答数を増加する方法は提案されていなかった.これに対して,繰り返し学習など単純作業中においてはBGMのように音楽などを聞く方法が提案できる.また,一定時間内の回答数を最大とする条件を見つけるためには,クレペリン検査中の脳波からリズムなどの条件を組合せたときの脳波のパワースペクトルを推定することは有用であるが,これまでは研究されていなかった. 2022年度は,クレペリン検査を対象に,回答数を最大とする最適リズムと脳波のパワースペクトルの関係を明らかにした.また,脳波を用いて,最適リズムにおいて回答数が増加するメカニズムを解明した.さらに,通常のクレペリン検査の脳波とリズムのみを聞いた脳波から,リズムを聞きながらクレペリン検査を行う場合の脳波のパワースペクトルを推定し,実測値と比較した.これらの成果は,科学研究補助金(基盤研究(C):課題番号21K02783)によって行われたものとして,工学教育2023年3月号に論文を発表することができたので,おおむね順調に進展しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況から,記述式の繰り返し学習をながら作業で行うことの賛否は,Cα/Cβの値の増加や左脳と右脳のバランスで検討できると考えられる.また,加法定理やオームの法則など単純な暗記を要する学習,パソコンにプログラムや実験データを入力する学習,観測波形や機械製図のトレース学習において,教員は学生全体の平均レベルの1.2倍のリズムで進めれば,学生は制限時間内に多くの学習が,学習量を一定とすると短時間に学習ができることが検討できる.さらに,本提案の推定方法を活用すれば,個々の学生にとってクレペリン検査で回答数が増すと思われるリズム以外の脳波の組合せ条件(例えば,安静閉眼,アロマテラピー,絵画鑑賞など)が検討できる.なお,単純作業でない場合やリズムの音色の違いによる回答数・誤答数については検討する必要がある.また,学習量の推定において,2つの脳波を正規化した後に単純加算しているが,2つの重みや演算方法,正規化の妥当性については,誤差とも関わってさらに検討する必要がある. 今後の研究は,以上の検討課題を推進することである.また,研究計画書において,2023年度はLMSの運用によって得られた学習データの分析と推定を行うことを目的としている.このため,2022年度の成果として得られた推定結果をシステムに組み込んで動作確認を行う方策により,演習問題型と繰り返し学習型の各コースウェアの学習データを基に,個別学習可能なSCORM対応LMSを開発する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由は,コロナ禍において,学会発表や情報収集が現地開催とオンライン開催の併用があり,出張旅費として使用できずに済んだこと,及び2022年度の研究成果である雑誌論文(査読付き論文)がデジタルオブジェクトのため,別刷りの数量を少なくてすんだためである. 2023年度の使用計画では,学会発表及び研究会に積極的に参加することで有用な学会活動を行う予定である.
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