研究課題/領域番号 |
21K02829
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
神田 陽治 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80417261)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人工知能 / 特許性判断 / 弁理士 / 知識修得 / スキル修得 |
研究実績の概要 |
初年度は、コロナパンデミックの影響で国内移動が制限される中で、特許申請業務を行う弁理士・特許技術者を対象とした調査を行うことができなかった。そこで、当初計画から変更した手順で研究を進めることとした。面談調査は次年度に譲るとし、初年度は、本研究の問い(「人工知能は専門家の知識・スキル修得を、阻害するのか促進するのか。」)について考えを進め、1件の図書出版(国内)、1件の招待講演(国際会議)で公にした。特に招待講演では、イノベーションの普及理論に見るように便益が明らかな場合でも人間はすぐに採用するとは限らないことから着想し、「(自分の親の言うことを聞かない性向を持つ)人間が、人工知能のアドバイスを果たして素直に受け取るのか?」という問いが、知識科学&人工知能分野の研究課題となりうることを主張した。さらに、次年度の成果に繋がるように、図書への寄稿(国外)1件を行い、また、国際会議の主催(金沢市)の準備を進めた。この国際会議は「価値創造」を主題とするものであるが、著名なキーノートスピーカー(複数)を招聘し、価値創造に人工知能がどのように寄与するのかについて議論する場とする。 調査対象の「人工知能が特許性を判定するサービス(AI Samurai社, https://aisamurai.co.jp/)」には、この1年間で新機能が追加された。特許検索式の生成(人工知能がどのような範囲の特許文献を調べたかを具体的に理解する助けとなる)や、特許文書作成支援機能(出願しようとしているアイデアを入力すると、人工知能が類似特許を検索し、見つけた類似特許群を合本して、仮の特許文書を生成する)である。次年度は、これらの新機能を研究デザインに取り込むことで、当初の研究上の問いに、もっと効率良く答えを与えられないかを再考しつつ進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、専門家が業務を行う中で身に付けていると思われる、暗黙的な知識・スキルを、専門家の業務遂行の一部を人工知能が支援、あるいは代替できるようになる時代に、専門家を専門家たらしめている暗黙的な知識・スキルを、いかに修得できるのかを問うものである。暗黙的な知識・スキルの修得は阻害されてしまうのか、それとも人工知能の働きが修得を促進するのかを研究調査するものである。 本研究では研究を具体的に進めるために、専門家として、特許申請業務を行う弁理士・特許技術者を対象とし、「人工知能が特許性を判定するサービス(AI Samurai社, https://aisamurai.co.jp/)」を使う。このサービスは類似特許を検索し、クレームチャートという、弁理士や特許技術者が日頃、特許性を判断するために使っているチャートの形を模して表示できる。クレームチャートという慣れ親しんだ形で表示することで、弁理士・特許技術者による特許性の内容の理解が効率化し、専門家の知識・スキル修得が促進されるというのが、本研究の開始前に想定していた答えである。 本研究の「問い」に答えを出すためには、弁理士・特許技術者への面談調査が必要であるが、コロナパンデミックの影響で国内移動や海外移動が制限されるなかで、面談調査が行えないことが続いた。代替手段として、問いに磨きを掛けることにした。問いについて書いた図書を執筆(国内図書の分担執筆、および、国外図書の分担執筆)し、招待講演を受けて、「問い」について講演した。 さらに、本研究の問いに答えるヒントを得るために、国際会議に行くのではなく、国際会議を主催することとし、初年度に国際会議の準備を進めた。なお、国際会議は、著名なキーノートスピーカー(複数)を招聘し、2022年9月に金沢市で開催予定である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において、弁理士・特許技術者への面談調査を延期している間に、「人工知能が特許性を判定するサービス」に新機能が追加された。追加された機能は、特許検索式の生成と、特許文書作成支援機能である。 弁理士や特許技術者は、従来の特許調査では、特許検索式を使って、特許業務を行って来た。それゆえ特許検索式には慣れ親しんでいる。そこで、特許検索式の生成機能を使うと、人工知能がどのような範囲の特許を類似特許として絞り込んだのかを、弁理士や特許技術者は把握することができる。その結果、人工知能の判断がブラックボックスとなることへの心配が軽減され、人工知能の判断を信頼するようになる結果、「人工知能は専門家の知識・スキル修得を促進する」と想定する。弁理士・特許技術者が、どのように特許検索式の生成機能を使い、特許検索式から何を学んでいることを調べることで、この想定の真偽を確かめる。 特許文書作成支援機能は、入力されたアイデアを請求項とする特許文書を、当該アイデアの類似特許文書群を合体することで生成する。この合成された特許文書を読むことで、個々の特許文献の細部に目を通すことなく、いわば凝縮した形で類似特許文書群を理解することができるので、より効率的に専門家の知識・スキル修得ができると想定する。弁理士・特許技術者が、どのように特許文書作成支援機能を使い、合成された特許文書の読解から何を学んでいることを調べることで、この想定の真偽を確かめる。 要約すれば、新機能をどのように弁理士や特許技術者が使っているかを調べることで、本研究の「問い」への答えを、より効率的に出して行けるものと考える。さらに、初年度に計画した国際会議の場を利用して、「問い」への答えのヒントも得られると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度、コロナパンデミックの影響が続き、国内移動が制限される状況により、弁理士・特許技術者への面談調査が行えない状況が続いた。また、海外への渡航が制限される状況により、国際会議への参加も行えない状況が続いた。そのため、出張費のための予算がそのまま残る形となった。そこで、当初の計画とは違った手順で研究を進めることとした。問いについて、図書出版や招待講演を通じて、考えを公にした。さらに、本研究の問いに答えるヒントを得るために、国際会議に行くのではなく、国際会議を主催することとし、準備を進めた。 次年度は、「人工知能が特許性を判定するサービス」に追加された新機能を利用することで研究デザインを再考し、弁理士・特許技術者への面談調査を計画する。また、国際会議を主催する。本国際会議は「価値創造」を主題とするものであるが、著名なキーノートスピーカー(複数)を招聘し、価値創造に人工知能がどのように寄与するのかについて議論を行う。
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