弁理士は、多数の特許文献に触れることで、聞いたアイデアに特許性があるかどうかを直感的に判断する暗黙知が身に付いていると考えられる。 本課題は、特許性を判断するAIを日常の業務の中で使う弁理士が「特許性の直感的把握力」をどのように習得できるのか――習得が難しくなるのか、それともむしろ容易となるのか――を問うものであった。研究期間の前半で、「特許性を判断するAI」が特許性を判断できることを確認し、特許性を判断するAIが探し出してくるニアミス例(アイデアの一部のみを被覆している特許文献)が習得をむしろ容易とする可能性を示した。研究期間の後半にChatGPTが登場したことを踏まえ、本課題の問いを拡張した。すなわち、ChatGPTに代表される生成AIを日常の業務の中で使う専門家が、その専門性の根拠である暗黙知をどのように習得できるのかに問いを一般化した。 最終年度では、専門家として研究者に注目し、科学技術論文の作成が生成AIを使うことでどこまで可能となるかを独自の方法で考察した。特許性があるためには、「新規性」だけでなく、既存のアイデアの単純な組み合わせでもないという「進歩性」の条件が満たされる必要がある。本研究では、科学技術論文の「独自性」は特許の「新規性」に、「学術研究の意義」は「進歩性」に対応すると洞察し、「特許性を判断するAI」の存在により、科学技術論文の作成も行えることを示した。特に、科学技術論文はIMRaDと言われる形式で書かれるので、IMRaD構造を分析したり生成したりできる生成AIにより、科学技術論文の執筆の過程の多くを生成AIによって行うことが可能となるのである。科学技術論文の要約や先行文献調査を行う生成AIがすでに市場に多く現れているが、今後は、研究者が設定したリサーチクエスチョンを入力に、科学技術論文の執筆を行う生成AIが市場に現れることだろう。
|