研究課題/領域番号 |
21K02845
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
安永 悟 久留米大学, 文学部, 教授 (60182341)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | LTD授業モデル / AL型授業 / 協同教育 / 協同認識尺度 / 授業設計 / 初年次教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、LTD授業モデルによるAL型授業の改善を目的として次の点を検討している。目的1:協同教育が求める協同認識を測定する尺度と、LTDの獲得・習熟度を測定する評価表を開発する。目的2:LTD授業モデルに沿ったLTDの獲得と習熟を促す授業改善を継続する。そのうえで目的3:授業実践による協同認識の質的変化とLTDの獲得・習熟過程との関係を検証し、両者がAL型授業(PBLまたは反転授業)におよぼす影響を検討する。 本研究の初年度(2021年度)は、医学生と看護学生を対象とした初年次教育科目、および心理学生を対象とした専門科目を主たる検討対象とした。そのさい、LTDの獲得と習熟を意図したLTD授業モデルにもとづく授業づくりを中心に検討し、従前の指導方法を見直した。なお、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、対面授業が制限され、Webを活用した授業づくりが中心となったが、これまでに培ってきた実践経験に基づき、一定の成果をあげることができた。このことはLTD授業モデルによる授業づくりがWeb環境を前提とした授業づくりにも効果的であることを実証する結果となった。 これらの研究成果に基づき、関連する学会でシンポジウムやワークショップを開催し、広く意見交換をおこなった。また研究成果の一部は関係する教育雑誌に掲載した。さらに学会誌への投稿論文としてまとめ、現在審査を受けている。 また、協同認識を測定する協同認識尺度を新たに開発した。本尺度は3因子14項目11件法で構成されている。3因子は「切磋琢磨・互恵疑念・集団疑念」と命名した。本尺度の信頼性と妥当性を確認できたので、現在、2021年度に収集した授業記録紙や諸調査の結果を手がかりに、上記目的3の分析を進めている。 以上の研究成果を基盤に2022年度の授業計画を練り直し、現在、新たな受講生を対象とした実践研究を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断している。判断理由は次の通りである。 目的1の協同認識尺度の開発が終わり、投稿論文としての準備を進めている。 目的2のLTD授業モデルに沿った授業改善が進展した。LTD授業モデルに基づく授業構成や、授業で使用する教材およびその使用法は書籍「授業を活性化するLTD」(安永, 2019)に準拠している。2021年度の実践では、そのすべてを主に社会的構成主義の観点から見直した。そこには授業を構成する学習活動、およびスライドを中心とした授業用教材が含まれる。またビデオ会議システムを使用したWeb授業に対応できるように授業環境を整備し、指導方法も工夫した。さらに、応用段階におけるAL型授業(LTDに基づくPBLと反転授業)も一定の形ができつつある。加えて、LTD授業モデルの最終段階にあたる学外実習についての予備的な検討も進めることができた。本成果の一部は関連する教育雑誌に掲載した。また関係学会において投稿論文として審査を受けている。 目的3のLTD授業モデル基礎・習熟段階における協同認識の質的変化とLTDの獲得・習熟過程との関係に関しては、分析対象となる基礎データを2021年度後期までに収集できたので、現在分析中である。そこでは、LTD授業モデル応用段階で反転授業を受講した学生のうち、基礎・習熟段階の経験者と未経験者とを比較検討し、協同認識の変化とLTDの獲得・習熟との関係を吟味する予定である。 一方、目的1で予定していたLTDの獲得と習熟度を評価するルーブリックの作成については、これから本格的に検討する。現時点では、LTDの手順であるLTD過程プランの理解度と、授業成績とのあいだに期待した関係がみられる傾向を把握できている。この知見を手がかりに、LTD過程プランの理解度を評価するルーブリックの開発を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
LTD授業モデルに依拠した授業の改善をめざした本研究の最終目的は、高等教育でも推奨されているAL型授業の質を高め、将来、受講生が関与する実社会における「現場」において、同僚と連携・協力して活躍できる基礎力(協同実践力)を育むことである。この協同実践力を育成する1つの手段として開発したLTD授業モデルに基づく授業計画、授業用教材、教育指導の方法などを精緻化し、本モデルに沿った授業の有効性を高め、その効果を実践的に検討することが本研究の具体的な検討課題である。 この目的を達成するために、これまでにえられた実践データを手がかりに、LTD授業モデルの基礎・習熟・応用の3段階それぞれの授業を改善し、3段階の体系的・重層的な関連づけを、協同教育の理論と技法、とくにLTD話し合い学習法に依拠しながら展開し、その有効性を吟味する。そのさい授業を構成する各種要素の関係性をつねに意識しながら、多様な個性と特性をもつ学生で構成される多様な学生集団に対応できる効果的なAL型授業の実践をめざす。また、高等教育場面と実社会とをつなぐ学外実習(臨地実習)の質を高める方法に関して、LTD授業モデルの観点から検討を加える。 具体的には次の点を中心に検討する。課題1:LTD授業モデル3段階に基づく授業改善を継続する。そのさい2年目にあたる2022年度は、とくに習熟段階で使用する授業用教材の開発と、その使用法について検討する。また、応用段階に関しては、LTD型PBLとLTD型反転授業の指導法をさらに精緻化する。加えて、応用段階における学外実習のあり方について、実習現場との連携・協力のあり方も加味しながら、新たな検討課題に加える。課題2:LTDの獲得および習熟度を評価するルーブリックの作成を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる原因は次の2点である。1点目は研究成果の発表用に準備していた学会出席に伴う旅費と宿泊費、および学外の研究協力者との研究会を開催するために準備していた旅費と宿泊費が使用できなかったことである。いずれもコロナウイルス感染症拡大に伴い、所属大学において対面による会合の開催および出張に関する規制が強化されたことが直接の原因であった。2点目はWebによるデータ収集が可能になり、これまでアルバイトを雇っておこなってきたデータ入力作業が必要なくなった。また、本研究成果を一般に還元する目的で開催している研究会の開催ができず、そのために準備していた人件費・謝金を使う必要がなくなった。 次年度においては、コロナ関係の規制も緩和される方向にあり、対面で開催する学会や研究会も増えているので、差額分は、学会出席に伴う旅費として使用する予定である。また、研究を推進するために学外の研究協力者との研究会を開催する。そのための旅費・宿泊費として使用する。加えて、遠距離にあるLTD授業モデル実践校との協議ならびに、担当者に対する研修指導が必要となったので、そのための旅費・宿泊費などに活用する。一方、人件費・謝金に関しては、本研究に関連した研究会や研修会の開催に係わる経費、および研究推進に必要な専門知識や技能の活用に関する資金として使用する。
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