本年度は、情報機器「本人の声質まま音高の変更が可能な音響システム」を使用し、学習者自身の声質を模範の音声とした歌唱練習を実施した。この練習方法により、実際に学習者の音程感覚が効果的に向上するのか検証を行った。前年度までの研究では、情報機器を活用し自身の声質のままで音高情報のみを加工した模範の音声が、音程感覚に自信のない学習者にとって音高の区別がしやすく聴き取りやすい音声であることが分かっている。今後、教育現場で応用するために、実際の歌唱練習場面を想定した実践を行い、その効果を確認した。 歌唱練習の結果、自分の声質による模範練習では、学習者の声種や声域に関係なく提示された模範の音高をスムーズに判断して聴き取ることができるようになった。また提示された音声の音高を模倣する際にも、発声を迷ったり戸惑ったりする様子は練習に対する慣れとともに見られなくなり、円滑に学習が進んだ。これは普段から慣れ親しんでいる自身の声質であれば、提示された模範の音声から音高の違いのみに意識を集中して聴き取ることができるため、ピッチマッチがやりやすくなると考えられた。また、自分の声質であれば発声すべき音高のイメージを作ることが容易になり、提示された音高に対して速やかに発声できるようになったものと考えられた。自身の声質の中で音高の違いだけに集中して聴き取ることができれば、音高の違いに気づくスピードも上がり、音高を修正する力も引き出すことができると考えられた。さらに音高の判別が素早くできるようになり、発声した瞬間が合わなくとも反射的に音高を合わせやすくなることも考えられた。これらの結果及び前年度までの結果から、音程感覚に自信のない学習者にとって、情報機器を活用した自分の声質を模範とする方法が、音程感覚を身につける練習として効果的な支援方法となると考える。
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