研究実績の概要 |
算数・数学に係るメタディスコースの存在と様態を説明するために,Polanyi,Mの暗黙知論,及びSfard,A.のコミュニケーション論を基に,理論を展開した。Polanyi,M.とSafard,A.とは共に,思考とコミュニケーションを統合する視点をもっており,数学教育的な現象に対する全体論的なアプローチを伴うものである。Polanyi,M.理論は科学哲学・知識論であり,Sfard,A.の見解は数学教育学の範疇にある。 理論的な展開が進むに従って,中学生の実際の数学的活動におけるメタディスコースの存在と様態とを,これまで収集したデータを分析することによって捉える作業を進めた。特に,中学校関数授業においてはメタディスコースとして,関数の定義に係るものや,関数の性質に係るものの他に,数学的内容全般に係るものがある。一見して,外的に現れるディスコースが成立している様であっても,個人的には各自異なるイメージをもっている場合があり,このイメージこそがメタディスコースとなっている。 数学授業ではコミュニケーションが成立しているような場合であっても,各個人が異なるメタディスコースをしているのであれば,構成する数学的知識が個人間で全くに同一ということはあり得ない。そういう意味では,数学的知識の絶対性を標榜するプラトニズムに反した社会的構成主義としてのメタディスコースの存在と様態を論ずることは数学教育学的に意義がある。 実際,数学教育の実践において,数学を絶対的なものとするか,社会的に構成されるものとするかは,特に,教師のもつ数学観を論ずる際に重要となる。この研究は教師のもつべき数学観とは何か,に対する見解にも一石を投ずることになる。
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