研究課題/領域番号 |
21K02881
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
宗尻 修治 広島大学, 先進理工系科学研究科(総), 准教授 (90353119)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 物理教育研究 / 力学概念 / 縦断データ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「力学を学び始めた学習者(高校生)がニュートン力学に関わる概念をどのような順序で獲得していくか,また,ニュートン力学を修得できる学習者と、その前の段階でとどまる学習者の概念理解の過程にどのような違いがあるか」を力学概念理解度調査(全30問からなる多肢選択式テスト)データから明らかにすることである。我々はこれまでに高校生約200人に対して高校3年間の4時点で力学概念理解度調査を行い縦断データを取得している。本データを用いて、前の時点で選ばれた各問の選択肢が、後の時点で選ばれる選択肢にどのように影響するか分析を行う。また、異なる時点における、様々な概念間の共分散を評価することによって、概念理解の個人差を予測する変数(力学概念)を見出していく。 2021年度は、直接観測できる観測変数(各個人のスコア)を用いてモデル構築を試みた。その中でも,4時点で測定された縦断データを潜在成長モデル(マルチレベルモデル)を用いて分析したところ,観測データはモデルによく適合し,各個人のスコアの変化の特徴を表す潜在変数として,切片と傾きを得ることができた。さらに,個人差を説明する変数として,運動学に関する3問(問9,19,20)を選び,残り27問のスコア変化を説明できるか調べた。その結果,運動学3問の潜在成長モデルにおける切片は,残りの27問の切片だけでなく傾きとも関係していることがわかった。つまり,始めの時点の運動学に関するスコア(切片)は,残り27問のスコアのその後の伸びにも関係していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は当初の予定通り,力学概念調査データの各個人のスコア(観測変数)を用いて,時点間のスコアの関係を分析した。いくつかのモデルを構築し,マルチレベルモデル(潜在成長モデル)を用いた成果については日本物理学会にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に行ったような複数の観測変数の合計を変数とするモデルでは、一般に希薄化と呼ばれる現象が生じ、変数間の相関が弱くなる。そこで、今後は直接観測される変数ではなく、潜在変数を用いて分析する方法を行う。力学概念調査データの背後には、被験者の各力学概念に対する理解度と言える潜在変数が存在しており、それが観測される各問いで選ばれる選択肢を決めているという考え方である。構造方程式モデリングを行い,潜在変数の関係性を,影響の向きも含めてモデル化していく。 各時点のデータに対して確認的因子分析を行い,例えば,力の特定、力がはたらいていない場合の運動の第1法則、第2法則と運動学、正味の力がゼロの場合の第1法則、運動の第3法則などという意味づけされた因子を抜き出す。この潜在変数としての因子を用いて、同一時点内での関係や、また時点間の関係を分析することによって、各個人の概念理解の時間変化、さらには、因果関係の解明を目指して分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は,学会参加のための出張を予定していたが,オンライン開催となったため旅費を使用しなかったためである。この残金については,次年度の学会参加のための旅費として使用する予定である。
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