ニュートン力学は物理を学ぶうえで最も基本となる分野である。本研究では、「力学を学び始めた学習者(高校生)がニュートン力学に関わる様々な概念をどのような順序で理解していくか、また理解度の個人差を説明する変数は何であるか」を明らかにすることを目的とした。その分析には30問からなる力学概念理解度調査(FCI)を利用した。FCIデータは「物理基礎」「物理」を学ぶ361人の高校生から取得した。FCIの30問は,運動学,運動の第1法則,第2法則,第3法則,重ね合わせの原理,力の種類の6つに分類されている。しかし,学習者は,必ずしもそのような概念理解をしているとは限らない。そこで,30問の観測変数の因子分析を行い,本研究対象者の理解の仕方を因子に分類した。高校1年時の4月と2月の2時点について,それぞれ4つと5つの因子に分類した。各因子はおおよそ,運動学,運動の第一法則,第三法則などに意味付けすることができた。この2時点間の各因子の共分散構造分析を行った結果,運動学の因子が次の時点におけるすべての因子と相関が強いことがわかった。一方,運動学以外の因子は,後の時点の同じ意味を持つ因子との問の相関はあるものの,それ以外の因子との相関は低かった。つまり運動学の理解がその後の力学概念の理解に重要であることが示された。さらに,運動学の理解は,「物理基礎」の上位科目である「物理」を選択するかどうかにも関係していることも明らかになった。
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